「Ibis」に由来する新規コムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子座
要約
コムギ縞萎縮病抵抗性品種Ibisに由来する抵抗性遺伝子YmIbは染色体2D上に座乗する。抵抗性遺伝子近傍の4種類のDNAマーカーの中から、多型が得られるマーカーを選ぶことにより、本抵抗性遺伝子の戻し交配等に活用できる。
背景・ねらい
土壌伝染性のウイルス病であるコムギ縞萎縮病は、北海道から九州までの全国の小麦栽培地帯で発生しており、最近は特に、被害地域の拡大が大きな問題となっている。本病は、薬剤による防除が困難で、抵抗性品種の利用以外に現実的な対策はない。外国品種「Ibis」が持っているコムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子の座乗位置の解明を目的として研究を行う。
成果の内容・特徴
- コムギ縞萎縮病抵抗性品種と罹病性品種の交配から得られた倍加半数体集団は、北海道および九州のコムギ縞萎縮病発生圃場において、抵抗性と罹病性の系統がほぼ1:1に分離する(図1、2)。
- コムギ縞萎縮病抵抗性とDNAマーカーとの連鎖解析を行った結果、「Ibis」由来の新規のコムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子YmIbは、2D染色体上にマッピングされる(図3)。両地点ともLOD値が高く、ほぼ単一の抵抗性遺伝子と見られる。
- コムギ縞萎縮病抵抗性が優れる海外由来の品種「Ibis」、「Madsen」、「KS 831957」、「Jagger」および北海道農研センター育成の「ゆめちから」は、抵抗性遺伝子近傍の4種類のDNAマーカーが全て抵抗性品種の「Ibis」と同様の多型を示す。一方、抵抗性が「中」以下の品種・系統の「ホクシン」、「キタノカオリ」、「きたもえ」、「チホクコムギ」は、4種類のDNAマーカーが、罹病性品種の「Münstertaler」と同様の多型を示す(図4)。
成果の活用面・留意点
- 抵抗性遺伝子近傍の4種類のDNAマーカーの中から、多型が得られるマーカーを選ぶことにより、本抵抗性遺伝子の戻し交配等に活用できる。
- YmIbの遺伝効果および抵抗性品種と罹病性品種におけるDNAマーカーの多型については、今後検証が必要である。
具体的データ




その他
- 研究課題名:実需者ニーズに対応したパン・中華めん用等小麦品種の育成と加工・利用技術の開発
- 中課題整理番号:311c
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2006~2010 年度
- 研究担当者:西尾善太、小島久代、入来規雄、伊藤美環子、田引正、山内宏昭、Timothy Murray(ワシントン州立大)
- 発表論文等:Nishio et al. (2010) Euphytica 176:223–229.