代謝プロファイリングによる窒素施肥および有機物施用効果の評価

要約

作物体の糖・有機酸・アミノ酸の代謝プロファイリングにより、窒素および堆肥施用量の相違がダイコンの代謝成分に与える影響をそれぞれ解析できる。影響は窒素施用量でより強いが、堆肥施用量による影響も明瞭に観測される。

  • キーワード:メタボローム、GC/MS、一斉分析、窒素栄養、堆肥施用量、
  • 担当:北海道農研・根圏域研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

有機物の施用は作物の品質を向上させると一般的に考えられている。品質に対する影響については窒素栄養との関連が報告されているが、有機物自体からの影響の有無について未解明な点が残されている。北海道の主要野菜であるダイコンは、吸肥力が強く有機農業への適応性が高い作物であるが、有機物施用の効果を十分に活用した高品質化には至っていない。適切な有機物管理法を提示できれば、他のアブラナ科野菜においても高品質化が期待できる。有効な管理法を見出すためには、有機物の効果を定量的に捉えるための手法が必要であるが、特に、植物体内で生じる変化を可視化できる手法が得られていない。そこで、有機物や窒素施用が作物成分組成に与える影響の全体像を把握するために、低分子の水溶性成分(糖・有機酸・アミノ酸など)を一斉分析し、体内代謝成分の組成をもとにした各種要因による影響を可視化するための手法を提供する。

成果の内容・特徴

  • GC/MSによる糖・有機酸・アミノ酸の一斉分析により、ダイコンの葉身、根部からそれぞれ82および42成分の相対濃度が測定できる。
  • 窒素(硫安)および堆肥施用量を変えてダイコンを栽培すると、窒素および堆肥施用量が増すほど窒素等の養分供給量が増大し、各種養分吸収量が高く根重の重いダイコンが得られる(表1)。
  • 2の条件で栽培したダイコンの代謝プロファイルについて、主成分分析を用いて比較すると、第1主成分(全分散の46.3%)が窒素施用量に、第2主成分(全分散の14.6%)が堆肥施用量の差異に対応した分離を示し、両処理による代謝成分への影響を可視化できる(図1)。
  • 主成分分析(ローディングプロット)により、窒素および堆肥施用量による影響が強く現れる代謝成分が明らかになる。応答性の強い成分として、窒素に対してはL-セリンやグリシンなどのアミノ酸類が、堆肥に対しては新たにmyo-イノシトール-1リン酸やシキミ酸などが挙げられる(図2)。根部の成分(青色)と比較して葉身部の成分(黒塗り)の方が窒素および堆肥施用量に対して高い応答性を示す。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、北海道の多腐植質黒ボク土において牛糞麦稈堆肥(C/N比:10.4)を2年間連用して栽培されたダイコンより得られたものである。栽培条件の詳細は発表論文を参照のこと。
  • 本成果は、植物体内代謝成分の解析において、有機物による影響を主成分分析により可視化(指標化)することに成功した初めての事例である。本手法の活用により、様々な栽培条件における品質関連成分の変動要因が解明され、機能性成分等を強化するための栽培法の開発に利用できる。
  • 官能評価や微生物相等の解析と統合して用いることにより、食味の向上・病害抵抗性の強化・生育促進技術の提案に繋がる。

具体的データ

図1 ダイコン代謝成分の主成分分析 (スコアープロット)  各点は3反復(圃場反復)による平均値。エラーバーは標準誤差(n=3)。 Nは窒素施用量、Mは堆肥施用量に対応。 括弧内は主成分の寄与率。

図2 主成分分析における各代謝成分の 応答性の比較(絶対値ローディングプロット) ○●:アミノ酸、△▲:有機酸、□■:糖・糖アルコール、 ◇◆:その他 青色:根部、黒塗り:葉身部に対応

表1 異なる窒素および堆肥施用量で栽培されたダイコンの根新鮮重および窒素吸収量

その他

  • 研究課題名:根圏域における植物—微生物相互作用と微生物等の機能の解明
  • 中課題整理番号: 214i
  • 予算区分: 基盤
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:岡崎圭毅、信濃卓郎、岡紀邦、建部雅子
  • 発表論文等:Okazaki K. et al. (2010) Soil Sci. Plant Nutr. 56(4): 591-600