凍結・湛水条件でも実施可能な土壌ガスのモニタリング方法

要約

ガス透過性膜であるシリコンチューブを土壌中に埋設することで、土壌の凍結融解条件においても土壌ガスの深度別採取やガス分圧の経時変化の記録が可能となり、一酸化二窒素が土壌中で生成され蓄積する状況・要因を調査することができる。

  • キーワード:土壌ガス、一酸化二窒素、土壌凍結、シリコンチューブ、脱窒
  • 担当:北海道農研・寒地温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 区分:北海道農業・生産環境、共通基盤・土壌肥料、共通基盤・農業気象
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

一酸化二窒素は成層圏オゾン層の破壊に関与することも知られる温室効果ガスで、窒素肥料の利用により大気中で増加し続けている。一酸化二窒素は温帯・熱帯域に限らず、寒冷な地域でも融雪期に短期・集中的な排出が生じることが知られていて、その排出量削減技術の確立に向け土壌中での一酸化二窒素生成機構とその制御要因の解明が期待される。しかし、極寒なために土壌が凍結したり融雪により土壌が湛水するような場合には、土壌ガスを定期的に吸引採取・観測することは容易でない。本成果は、土壌凍結期間から融雪・融凍期間を通して土壌中のガスを直接吸引することなく深度別に土壌中のガスを採取・計測できる測器を提供し、土壌中での一酸化二窒素生成動態の解明に資する。

成果の内容・特徴

  • 土壌ガスサンプラーは、孔がないために液体を通さずガスのみを透過する材であるシリコン製のチューブで作成したガス交換部(一端をシリコンゴム栓で閉じる、0.5または1m長、内径10mm、1.5mm厚;土圧に耐えるため塩化ビニル製のパイプで囲う)と地上部から三方コックを介してシリンジでガスを採取するためにガス透過性の低い材であるナイロン製のチューブで作成したアクセス部から成る(図1)。ガス交換部を水平方向に長くとり、空間代表性の高い試料を得る。
  • 圃場に土壌断面を作成し水平方向に孔をドリルで深度別に掘削し、ガス交換部を挿入する。0.5m長のサンプラーを用いた場合約20mLの試料を採取でき、ブチルゴムで栓をした真空バイアルに加圧封入することでガスクロマトグラフによる定量分析に供することができる。試料採取後は、サンプラー内部の圧力補償のため窒素を封入する。
  • 一酸化二窒素の微生物による生成経路は酸素分圧に強く影響されるため、センサーによる土壌ガス中酸素分圧の自動観測の実施が要因解明にあたって望ましい。図1右に示す構造であればセンサーを掘り起こすことなく出力の校正が可能となる。
  • 地表から40cm深にまで土壌凍結が及んだ試験区において(図2の除雪区)、3月上旬の融雪に伴って凍結層下端よりむしろ地表面に近い部位から一酸化二窒素分圧が上昇し、消雪し土壌が融凍するに伴い降下する(図3)。土壌ガス中酸素分圧の低下は表層30cm深より10cm深の方が顕著であり酸素分圧の上昇に伴って一酸化二窒素分圧が低下する様子から、一酸化二窒素の生成は表層で脱窒反応で生じていると判断される。

成果の活用面・留意点

  • シリコンチューブにおける無機ガスの透過性は窒素<酸素、アルゴン<二酸化炭素、一酸化二窒素の順である。本成果にある1.5mm厚のシリコンチューブの酸素分圧の平衡時間は15-18時間ほどであり、一酸化二窒素の平衡時間はさらに短い。
  • 本研究で開発した測器は、寒地に限らず、より温暖な条件で排水性の低い土壌において降雨・冠水時に想定される土壌中での酸素分圧低下の実測に利用できる。
  • 本成果は無作付・裸地の試験圃場(黒ボク土)に、収穫後に施肥窒素が残留している状況を模擬して硝酸カリウムを50kgN ha-1散布した条件で行った観測に基づいている。

具体的データ

図1 土壌ガスサンプラーの構造:側面に孔があいた内径13mm、外径18mmの塩化ビニル製パイプに内径10mm、外径13mmのシリコンチューブが入り、地上の三方コックからガスを採取


図2 北海道河西郡芽室町に位置する試験圃場における気温・降水量ならびに積雪・土壌凍結深の経時変化:対照区は自然積雪状態、除雪区は除雪により土壌凍結の発達を促進

図3 除雪区における積雪・融雪および土壌の凍結・融解過程における土壌ガス中一酸化二窒素分圧(手動採取)と酸素分圧(自動連続観測、1時間平均値)の経時変化:↓は試験区の消雪日を、↓は土壌凍結層が消失した日を表す

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.1
  • 予算区分:科研費、地球環境
  • 研究期間:2008~2010年
  • 研究担当者:廣田知良、柳井洋介、常田岳志(農環研)、岩田幸良、古賀伸久、根本学、永田修
  • 発表論文等:
    1)柳井・常田(2009)土と微生物、63:26-31
    2) Yanai Y. et al. Soil Biol. Biochem.43,1779-1786. doi:10.1016/j.soilbio.2010.06.009