高付加価値食品としての油脂なしパンの創出

要約

油脂を入れないパンは製パン性が著しく劣るが、60°C加熱で調製したグルテン-グルコース複合体の添加によりそれを改善できる。これより油脂入りのパンと同等の品質でカロリー低減、トランス脂肪酸フリー等の高付加価値なパンの創出が期待できる。

  • キーワード:小麦タンパク質、メイラード反応、製パン性、油脂、物性
  • 担当:北海道農研・パン用小麦研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 区分:北海道農業・畑作
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

グルテンと糖を加熱して結合させたグルテン-糖複合体の添加により製パン性が向上することを報告したが、その活用として油脂なしパンへの応用を試みる。パン材料のショートニング、マーガリン不使用によりパンのカロリー低減、心疾患のリスク増大が報告されているトランス脂肪酸の除去ができ、バター不使用により乳アレルゲンフリーが可能になるが、何れも膨らみが悪く、硬いパンになる。そこで、本複合体の品質改良効果を活かし、一般の油脂入りパンに匹敵する品質で上記付加価値のある油脂なしパンの創出を試みる。

成果の内容・特徴

  • 60°C加熱により調製したグルテン-グルコース複合体をパン製造時に添加すると、グルテン形成に参入してグルテンネットワークを改質し、生地の伸展性を向上させ、焼成時の釜伸びを良くするように作用する。この効果は製パン性が著しく悪化する油脂なしの条件でも発揮され、パンの比容積は油脂入りのパンに匹敵する(図1)。
  • 油脂なしの条件でグルテン-グルコース複合体を添加したパンは、比容積の著しい増加に伴い焼成1日後の内相が柔らかくなり、油脂入りのパンと遜色のない食感になる(図2)。
  • 油脂なしの条件でグルテン-グルコース複合体を添加したパンの内相は、時間が経過しても硬くなりにくい(図3)。
  • グルテン-グルコース複合体の添加量が増すほど油脂なしパンの比容積向上に効果的である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • グルテン-糖複合体の製造に使用する糖はグルコースの他ラクトースが効果的である。加熱後の状態でも粉末状でも使用できる。
  • 本報告の具体的データに使用した強力粉は外国産小麦を原料にしたものであるが、強力粉であれば国産小麦を原料にしたものも使用できる。

具体的データ

図1 油脂なしパンの比容積におけるグルテン-グルコース 複合体添加の影響(対粉3.5%添加)

図2 油脂なしパン内相の硬さにおけるグルテン-グルコ ース複合体添加の影響(対粉3.5%添加)

図3 油脂なしパン内相の硬さの経時変化における グルテン-グルコース複合体添加の影響 (対粉3.5 %添加) 複合体の結合糖含量:5% Tukey の検定法により同じアルファベット文字間に は有意差がないことを示す(p<0.05,n=16)

表1 グルテン-グルコース複合体の添加量と 油脂なしパンの比容積向上効果

その他

  • 研究課題名:実需者ニーズに対応したパン、中華めん用等小麦品種の育成と加工・利用技術の開発
  • 中課題整理番号: 311c
  • 予算区分: 基盤、所特定
  • 研究期間:2009~ 2010 年度
  • 研究担当者:長澤幸一、田引正、西尾善太、伊藤美環子、山内宏昭
  • 発表論文等:長澤幸一 「食品品質改良剤の製造方法及びその方法で製造された食品品質改良剤」2008 年 特許第4129259 号