並行複発酵による麦稈からの乳酸ならびにエタノールの生産

要約

麦稈微粉砕物の糖化に最適な酵素の選定と最適糖化条件の設定を行い、設定条件下、麦稈微粉砕物を原料とした並行複発酵により、リゾプス菌による乳酸生産、あるいは、ドライイーストによるエタノール生産が可能である。

  • キーワード:麦稈、乳酸、エタノール、並行複発酵
  • 担当:北海道農研・寒地バイオマス研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:バイオマス、北海道農業・畑作
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

畑作物の生産過程で発生する麦稈などの副産物は、地球温暖化等を背景にエタノールなどのバイオ燃料や生分解ブラスチック原料となる乳酸などの石油代替品として、その変換利用が切望されている。また、バイオマス資源の地産地消の観点から、特別な装置を必要としない地域利用に適した簡素、簡便な技術開発が望まれている。そこで麦稈の前処理・糖化条件、発酵条件の設定と、麦稈からの簡易、簡便な乳酸ならびにエタノールの生産方法の検討を行った。

成果の内容・特徴

  • 各種酵素による麦稈からのグルコースおよびキシロースの生成量を調べたところ、Cellic CTec2とCellic HTec2を併用した場合にグルコースとキシロースの生成量の総和が最も多い(図1)。これらの酵素を併用した場合の最適糖化条件は表1の通りであり、この条件において麦稈中のセルロースの約40%に相当するグルコースの回収が可能になる(表1)。
  • 表1の最適糖化条件下、糖化と発酵を同時に行う並行複発酵により、麦稈微粉砕物からの乳酸あるいはエタノールの生産が可能であり、いずれの場合も最大6 g/l程度の生産物を生成する(図2)。
  • リゾプス・オリゼNBRC 5378株による乳酸発酵の場合、微粉砕物を用いた並行複発酵の際に最も比生産速度が高く、78時間後の定常到達時には対セルロース換算で25%の収率で乳酸が生産される(表2)。
  • ドライイーストによるエタノール発酵においては、糖化液で速やかかつ約26%の収率でエタノールが生産される。微粉砕物を原料とした並行複発酵の場合には、収率が約20%とやや劣るものの、比生産速度が高く生産効率が良好である(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 麦稈の品種や収穫年次によって酵素糖化性等に差異が生じる場合がある。
  • リゾプス・オリゼNBRC 5378株はキシロース発酵能を有しているためグルコース消費後、キシロースの消費が始まる。一方、ドライイーストによるエタノール発酵後、キシロースが未発酵で残存する。そのため、エタノール発酵後にキシロースを回収し別途リゾプス菌による発酵を行うなど、キシロースの効率的な利用法を検討する必要がある。
  • 粉砕処理と酵素糖化により容易に乳酸やエタノールの発酵生産が可能であるが、生産物濃度が十分でないため生産物の回収方法等の検討が必要である。

具体的データ

図1 各種酵素による麦稈からのグルコー ス、キシロースの生成

表1 麦稈の最適酵素糖化条件

図2 麦稈からの乳酸、 エタノールの生産

表2 麦稈からの乳酸、エタノール生産における糖化発酵条件の比較

その他

  • 研究課題名:寒地畑作物バイオマス資源の多段階利用技術の開発
  • 中課題整理番号:411a
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:齋藤勝一、波佐康弘、阿部英幸