伏流式縦型人工湿地の温度および構造に伴う浄化機作の変化

要約

搾乳場排水の処理を目的とした伏流式縦型人工湿地では、低温下でも有機物及び窒素の除去が行われる。しかし、窒素の硝化は低温下では小さく、ろ過により湿地内に物質が蓄積している。

  • キーワード:酪農、排水処理、搾乳関連排水、人工湿地、畜産環境
  • 担当:北海道農研・資源化システム研究北海道サブチーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:畜産草地、北海道農業・畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

搾乳場(パーラ)での作業や機器・床洗浄に伴う排水などの酪農雑排水は、生活排水と比較すると汚濁物質を高濃度に含んでいる上に量も多いが、処理が不十分なまま放出されることが多い。低コストの排水処理法として、耐寒性が高く面積効率がよいとされる伏流式人工湿地を活用する手法があるが、酪農雑排水のような高濃度排水での事例は少ない。ここでは、有機物の酸化および窒素の硝化に適する伏流式縦型人工湿地について、地下温度を常温の20°Cおよび処理性能の低下が始まると考えられる10°Cの2段階に設定した人工気象室にて、粒径の異なる砕石を3層充填した型と、シンプルな1層のみの型の2種の試験装置(無植栽)を用い、処理対象排水の濃度を2段階に変化させて2L/dayで流下させ、161日間(23週間)行った試験により、温度条件・構造および供給原水濃度に伴う浄化機作の変化を調査することを目的とした。

成果の内容・特徴

試験装置(図1)に原水を連続投入し、処理が安定した105日目から161日目(8週間)での各湿地の平均全有機炭素(TOC)除去率を見ると、概ね低温条件下および1層型での除去率の低下が観察されたが、高温条件では高濃度処理の3層型で顕著な変化が見られる(図2)。

3層型は、高温側ではTOC除去率において1層型と差異は小さいが、低温側では除去率の低下が小さい(図2)。

実験後の調査では、粒径の小さい3層型上部においては、特に高濃度処理時において乾燥によると思われる資材の閉塞が一部であるが観察される(図3)、このことが除去率の低下に影響したと思われる。

処理水中の全窒素(TN)は25~50mg/Lであり、除去率(原水中濃度と処理水中濃度の比較)についてみると低温側の方が高い(図4左)。しかし、原水中にはほとんど含まれていない硝酸態窒素(NO3-N)についてみると、処理水中での濃度は高温側の方が高い(図4右)。このことは低温下でのTNの分解・硝化は進行しておらず、TNの除去はろ過による捕捉であることを示している。

成果の活用面・留意点

低温期間の伏流式人工湿地における汚濁物質蓄積の予測に活用できる。

一般に路盤材として用いられる砕石を使用した試験であり、表面に細孔を持つなど特殊な構造の資材は用いていない。

 

具体的データ

図1:伏流式縦型人工湿地試験装置および条件

図2:各処理条件でのTOC 除去率

図3:乾燥した塊の発生(白線の囲み)

図4:窒素除去の動態(左:TN 除去率、右、処理水中NO3-N)

その他

  • 研究課題名:家畜排泄物の効率的処理・活用に向けた飼養管理システム及び資源化促進技術の総合的検証と新たな要素技術の開発
  • 中課題整理番号:214t
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010 年度
  • 研究担当者:森岡理紀、前田高輝、花島大