ペレニアルライグラスの分げつ数と草丈に関与するQTL

要約

ペレニアルライグラスの分げつ数と草丈を制御する量的形質遺伝子座(QTL)は計16の染色体領域に分散して存在する。各QTLは特定の栽培条件や刈取り年次に発現し、QTLと生育環境との交互作用効果は顕著である。

  • キーワード:ペレニアルライグラス、QTL、分げつ数、草丈、イネ科牧草
  • 担当:北海道農研・寒地飼料作物育種研究チーム、根圏域研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
  • 区分:北海道農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

イネ科牧草の分げつ数と草丈は、収量・品質・環境ストレス耐性などと関係が深い重要な形態形質である。両形質とその環境応答に関与する遺伝子の解明は、イネ科牧草の遺伝的改良にとって重要である。この解明に向けて、本研究は、イネ科牧草のモデル種であるペレニアルライグラスを用いて、分げつ数と草丈を制御するQTLを同定するとともに、QTLと栽培条件、刈取り時期との交互作用、およびQTLと候補遺伝子との関連性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ペレニアルライグラスのF2遺伝解析集団を北海道農研の野外圃場と温室で2年間にわたり評価し解析したところ、分げつ数と草丈に作用するQTLは、7つのDNAマーカー連鎖群に分散した計16の染色体領域(以下、QTL領域と呼ぶ)に検出される(図1)。
  • 計16のQTL領域のうち、10領域は分げつ数と草丈の両方に作用し、特にR2-2、R5-1、R6-1およびR6-2の4領域(図1)では、QTLの効果を表すLOD値、寄与率(r2値)がそれぞれ最大で7.7~16.3、34~56%と大きいことから、これらの領域に両形質を制御する主要な遺伝子が座上する。
  • 各領域のQTLは特定の栽培条件や刈取り年次に発現する傾向がある(図1)。分散分析によると、全領域で遺伝子型と栽培条件、又は気象条件を含む刈取り時期との交互作用効果が有意であることから(表1)、各QTL領域は草丈と分げつ数の環境応答に関与する。
  • イネやコムギの草丈制御(半矮性)遺伝子と相同性の高い塩基配列をペレニアルライグラスの連鎖地図上にマッピングしたが、その位置に草丈のQTLは検出されず(図2)、今回解析した候補遺伝子と草丈QTLとの間に直接的な関連性は認められない。

成果の活用面・留意点

  • 従来の育種法又はDNAマーカー選抜によりイネ科牧草の農業特性を改良する際の資料となる。
  • QTLの位置と効果は、遺伝解析集団、栽培条件および解析法により変動する可能性がある。

 具体的データ

図1.ペレニアルライグラスのDNA マーカー連鎖地図とQTL を検出した領域

表1. 各QTL 領域における遺伝子型と栽培条件、 刈取り時期との交互作用に関する有意性

図2.イネ科作物の半矮性遺伝子と相同性の高い塩 基配列のマッピングと草丈QTL の位置

その他

  • 研究課題名:粗飼料自給率向上のための高TDN 収量のとうもろこし、牧草等の開発
  • 中課題整理番号:212c.2
  • 予算区分:基盤、科研費
  • 研究期間:2003~2009 年度
  • 研究担当者:小林創平、M.O. Humphreys(アベリストウィス大学)、田瀬和浩、眞田康治、山田敏彦
  • 発表論文等:Kobayashi et al. (2011) Crop Sci. 51:600-611