放牧牛乳に特徴的な揮発性成分

要約

放牧牛の生乳には生草由来の揮発性成分のひとつであるphyt-1-eneが多く含まれ、放牧時間の増加に伴って増加する。また、昼夜放牧開始時や終了時には3日程度で有意な量的変化を示し、ホモジナイズや超高温殺菌後も消失しない。

  • キーワード:放牧牛乳、揮発性成分、phyt-1-ene
  • 担当:北海道農研・集約放牧研究チーム
  • 代表連絡先:電話011-857-9260
  • 区分:北海道農業・畜産草地、畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

北海道では牛乳生産に放牧を利用する農家が増加してきており、放牧による牛乳や乳製品の付加価値を高め、差別化を行うための科学的な指標が求められている。放牧牛乳は、β-カロテンや共役リノール酸などが豊富に含まれることが報告されているが、これらは放牧草以外の飼料中にも含まれることがあり、放牧牛乳の明確な判別指標とはならない。そこで、新たな判別指標となる物質を探すために、牛乳中に含まれる揮発性成分に着目し、放牧牛乳に特徴的な揮発性成分を検出するとともに飼養方法、放牧時間との関係、また放牧開始・終了時の変化やホモジナイズと超高温(UHT)殺菌の影響を明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 放牧牛乳の揮発性成分を水蒸気蒸留法で抽出し、GC/MSおよびGCで分析すると、生草(クロロフィル)由来の成分であるジテルペノイド類が多く検出され(図1)、とくにphyt-1-eneが顕著に現れる。
  • 牛乳中のphyt-1-eneの含量は1日の放牧時間の増加に伴って増加し、1日8時間かつ1週間以上の放牧で舎飼飼養の牛乳より有意(p<0.01)に高くなる(図2-(a))。
  • 牛乳中のphyt-1-eneの含量は、放牧草の推定採食量と正の相関がある(図2-(b))。
  • 舎飼と昼夜放牧飼養の切り替えに対し、牛乳中のphyt-1-eneの含量は速やかに反応し、どちらも切り替え3日後には切り替え前に対して有意な差(p<0.01)がある(図2-(c))。
  • 市販乳を想定したホモジナイズと超高温(UHT)殺菌を行っても、牛乳中のphyt-1-eneは保たれる(図3)。
  • 牛乳中のphyt-1-eneの濃度の差を用いると、1日8時間以上の放牧で1週間目以降、または昼夜放牧開始3日目以降において、舎飼時の牛乳と区別できる。

成果の活用面・留意点

  • 生草由来の揮発性成分phyt-1-eneは放牧牛乳の判別指標として活用が期待できる。
  • 本成果はメドウフェスクおよびペレニアルライグラス主体草地で放牧したときの結果である。
  • 牛乳中のphyt-1-eneの分析については、さらに迅速かつ簡易測定法などの検討が必要である。

 具体的データ

図1 テルペノイド類の生成経路と放牧牛乳中揮発性成分のGC/MSクロマトグラム(部分)

図2 放牧時間(a)、放牧草採食量(b)、放牧・舎飼切り替え後の日数経過(c)と牛乳中phyt-1-eneとの関係

図3 ホモジナイズおよびUHT殺菌前後の牛乳中phyt-1-ene

その他

  • 研究課題名:地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発
  • 中課題整理番号:212d.1
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(放牧牛乳)
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:上田靖子、朝隈貞樹、秋山典昭、須藤賢司、松村哲夫、篠田満