黒ボク土の土壌バイオマスリンはインゲンマメのリン吸収量の指標の一つとなる
要約
収穫時のインゲンマメ地上部リン吸収量と土壌バイオマスリン量との間に有意な正の相関があったことから、黒ボク土でインゲンマメを栽培する場合に土壌バイオマスリン量はリン吸収量の指標の一つとなる。
背景・ねらい
北海道においてはリン酸固定能の高い黒ボク土が多くの畑作地帯を占めているが、これまでの知見から作物が吸収できる土壌中のリン(有効態リン)量を常法であるトルオーグ法で評価しても、必ずしも作物の必要量を正確に評価出来ないことが知られる。そこで、土壌微生物菌体中に含まれているリン(土壌バイオマスリン)量が作物のリン吸収量の指標になりうるかを検討するため、リンの要求量が高いマメ科作物のうち、北海道でダイズ、アズキに次いで収穫量の多いインゲンマメのリン吸収量との関係を解析する。
成果の内容・特徴
- 施肥・有機物施用処理毎の土壌バイオマスリン量の平均値は乾土1kg当たり22.2~34.0 mgPで、下水汚泥施用区でやや高いものの、施肥や有機物施用の違いによる有意な差はなかった(図1)。また、土壌バイオマスリン量の経年的も増加もみられなかった。
- 試験期間中のインゲンマメの子実収量は1haあたり1.37~3.04トン、収穫時の地上部リン吸収量は1haあたり7.2~13.1kgPであった。収穫時のインゲンマメ地上部リン吸収量および子実収量は栽培年次の気象条件などの影響を受けることから、それぞれ年次毎に標準化した値を用いて解析すると、両者の間に1%水準で有意な正の相関がある(図2)。
- 各年次の地上部リン吸収量を年次毎に標準化した値を用いて土壌バイオマスリン量との相関を解析すると、両者の間に1%水準で有意な正の相関がある(図3)が、トルオーグリン量との間に有意な相関はみられない(図4)。
成果の活用面・留意点
- 黒ボク土での適正施肥管理において基礎的データとして活用する。
- 土壌バイオマスリン量はクロロホルムくん蒸抽出法の土:抽出液比を1:40とした改良法(杉戸・吉田(2006)土と微生物、60:11-15)で測定した。
- 北海道農研の下層台地多湿黒ボク土の圃場でインゲンマメ「大正金時」を栽培した場合の成果であり、リン吸収量を評価する指標として広く用いるためには他地域の黒ボク土および他作物を栽培した場合の検証が必要である。
具体的データ





その他
- 研究課題名:根圏域における植物-微生物相互作用と微生物等の機能の解明
- 中課題整理番号:214i
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2004~2010年
- 研究担当者:杉戸智子、信濃卓郎、吉田光二、建部雅子、豊田剛己(東京農工大)
- 発表論文等:Sugito T et al. (2010) Soil Sci. Plant Nutr. 56(3): 390-398