副資材投入による搾乳牛ふん尿堆肥化における温室効果ガス排出削減効果

要約

含水率約80%の搾乳牛ふん尿堆積型堆肥化において、裁断した低質乾草を副資材として投入し含水率を70%程度にすることによって、メタン排出を約7割、 一酸化二窒素排出を6割程度それぞれ削減が可能である。

  • キーワード:堆肥、温室効果ガス削減、搾乳牛ふん尿、メタン、一酸化二窒素
  • 担当:自給飼料生産・利用・自給濃厚飼料生産
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

我が国の搾乳牛ふん尿の約70%は堆肥化により処理されているが、この堆肥化過程では、メタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)等の温室効果ガスやアンモニア(NH3)等臭気物質などの環境負荷ガスが排出されることが知られている。温室効果ガス排出にも配慮した持続可能な家畜排せつ物管理が日本の酪農経営にも強く求められているため、特に温室効果ガス排出係数の大きい堆積型堆肥化からの削減方策の開発は急務である。上記環境負荷ガスのうち特にメタンについては、メタン生成古細菌が絶対嫌気性であり極めて還元的な環境下でのみメタンを生成可能であることから、副資材投入に伴う通気性改善により排出低減効果が期待できる。そこで、副資材投入による堆積堆肥化処理からのメタンおよび各種環境負荷ガス排出の低減効果について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本成果は搾乳牛ふん尿(初発含水率80%)約4tの堆肥化過程において、重量比10%に相当する低質乾草約400kgを裁断し副資材として投入した後(投入後含水率71.4%)、2週間に一度フロントローダーとマニュアスプレッダーによって切り返しを行い、8週間にわたって各種環境負荷ガスの排出に与える影響を副資材未投入の場合と比較して検討した結果である(n=3)。
  • 副資材投入に伴う発酵促進によって、中心部の最高温度は50.1±8.1°Cから76.4±1.8°Cに上がり、メタン排出は単位有機物あたり20.8±1.3 g/kgVSから5.4±1.4 g/kgVS(74.3%)、一酸化二窒素では初発全窒素あたり7.4±2.6 g N2O-N/kg Nから2.7±0.4 g N2O-N /kg N(62.8%)への低減効果が認められる(図1)。
  • 二酸化炭素は424.4±214.9 g CO2/kgVSから603.8±99.6 g CO2/kgVS、アンモニアは16.9±7.1 g NH3-N/kg Nから38.3±3.5 g NH3-N/kg Nへと増加する(図1、表1)。
  • メタン、一酸化二窒素の削減効果を堆積型堆肥化過程で処理される国内年間ふん尿排出量および含有窒素量に乗じ推定される最大削減効果は、メタン排出において年間70,466t、一酸化二窒素で1,379 t N2O-N、二酸化炭素換算で計1,907 Ggと試算される。
  • 物質収支をとると、初発全窒素の約3割弱は脱窒によってN2へと変換され、大気中へ排出されると推定される(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 我が国の温室効果ガス排出量削減のための具体的方策として選択肢の一つになる。
  • 他の畜種においても堆肥化の仕組みと温室効果ガスの生成メカニズムに大きな差はないと考えられるため、十分な副資材の投入によって同様の効果が期待できる。
  • 一酸化二窒素の排出低減メカニズムについては明らかになっていないため、さらなる削減策の開発に向けたよいモデル実験系となる。
  • 投入する副資材の種類によって多少効果が変動する可能性がある。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:大規模畑作地域における自給濃厚飼料生産利用技術の開発
  • 中課題番号:120c5
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:前田高輝、花島 大、森岡理紀、長田 隆
  • 発表論文等:Maeda K. et al. (2013) Soil Sci. Plant Nutr., 59(1):96-106