土壌中のフィチン酸リン利用に関わる根圏微生物の役割解明

要約

植物にとって難利用性リン化合物であるフィチン酸が利用される根圏土壌においてはフィチン酸の可溶化と分解に関わる微生物遺伝子の存在割合が高まることがパイロシーケンシングを用いたメタゲノム解析によって明らかになる。

  • キーワード:メタゲノム、根圏微生物、パイロシーケンシング、フィチン酸
  • 担当:総合的土壌管理・根圏機能利用
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

主要な土壌蓄積リン化合物であるフィチン酸は無菌条件下では植物は直接利用できない事から、その有効活用には微生物の働きが必須である。有効態リン酸が少ない土壌を用いた研究から植物によるフィチン酸利用能が高まる場合が見いだされ、その根圏土壌をフィチン酸が利用されない場合の根圏土壌と比較することにより、土壌微生物によるフィチン酸の植物への供与に関わるメカニズム解明が可能と考えられる。土壌微生物の機能性遺伝子群の包括的解析のために、超並列型シーケンサーを活用したパイロシーケンシング法に基づくメタゲノム解析を実施した。

成果の内容・特徴

  • 長年リン酸肥料を施与していない耕地土壌にフィチン酸を添加した後にミヤコグサを栽培した。リン酸を吸収し旺盛な生育をする個体と、リン酸を吸収できずに生育が抑制される個体が得られる(データ省略)。
  • 根圏土壌中のフィチン酸を31P-NMRで定量したところ、リン酸を吸収した植物の根圏土壌ではフィチン酸の量が低下している(図1)。
  • メタゲノム解析からは根圏土壌ではActinobacteria門、Acidobacteria門、Proteobacteria門、Bacteroidetes門が全体の6割以上を占めており、フィチン酸を効率的に利用可能な根圏土壌ではその構成割合において前2門が増加し、後2門が減少する(表1)。
  • 微生物の機能性遺伝子の根圏土壌における変動解析をSEED subsystemsのデータベースに基づいて解析すると、土壌中のフィチン酸利用に関与すると考えられるCitrate synthase(クエン酸合成酵素)やAlkaline phosphatase(アルカリホスファターゼ)の遺伝子構成割合がフィチン酸を利用しない根圏土壌に比べて利用する根圏土壌では3倍以上に増加していることが見いだされる(表2)。前者は難溶性フィチン酸の溶解に、後者は溶解したフィチン酸の分解に関与していることが推定される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果はミヤコグサ根圏で見いだされたフィチン酸の効率的利用に関する微生物種や微生物機能を明らかにした最初の知見である。
  • 微生物のDNAレベルの変動を解析した結果であり、今後RNAレベルの分析手法を組み合わせる事でさらに高度な分析が可能となる。
  • 土壌中のフィチン酸の利用能を高めるための指標として用いる事で、適切な資材や耕種体系の確立のために利用可能である。

具体的データ

 図1,表1~2

その他

  • 中課題名:寒地畑輪作における根圏の生物機能を活用したリン酸等養分の有効利用技術の開発
  • 中課題番号:151a2
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2008-2012年度
  • 研究担当者:信濃卓郎、海野祐介
  • 発表論文等:Unno Y. and Shinano T. (2013) Microbes Environ.28:120-127