メタボロミクスによるコマツナ成分に対する資材施用効果の解析

要約

直交表実験とメタボロミクスによる分析を組み合わせることにより、資材施用にともなうコマツナ成分への複数の要因効果を同時に検証できる。コマツナ成分に対して、窒素吸収量、堆肥施用量、緩効性窒素施用量の影響が認められる。

  • キーワード:直交表実験、堆肥、窒素吸収量、緩効性窒素肥料、メタボロミクス
  • 担当:総合的土壌管理・根圏機能利用
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業の土壌肥沃度管理手法のうち、堆肥等の有機物施用は利点が多いと考えられているが、作物の成分に与える影響についての情報は少ない。これまでの研究により、堆肥施用が作物の代謝成分に影響を与えることが明らかになっているが、その要因については未解明のままである。そこで、直交配列表を適用した圃場試験と、メタボロミクスによる代謝成分の分析を組み合わせる事により、堆肥施用時に想定される複数の要因が作物の代謝成分に及ぼす影響を同時に検証する。

成果の内容・特徴

  • 牛ふん堆肥(1, 2, 4kg m-2)、麦稈(0, 0.05, 0.1 kg m-2)、速効性窒素肥料(硫酸アンモニウム; 0, 6 or 12g N m-2)、緩効性窒素肥料(被覆硝酸アンモニウム; 0, 3, 6 g N m-2)、リン酸(過リン酸石灰; 0, 5, 10 g P2O5 m-2)、カリウム(硫酸カリウム; 0, 3 or 6 g N m-2)の6要因を直交配列表(L27)に割り付けて設計した圃場試験とコマツナ成分のメタボロミクスによる分析を組み合わせることにより、設定された要因の効果を検証できる。
  • 線型モデルを適用することにより、窒素吸収量、堆肥施用量、緩効性窒素肥料の3つが個々の代謝成分に対する効果が高い要因として挙げられる(表)。一方、麦稈、リン酸およびカリウム施用量による影響は軽微である。
  • 代謝物のピーク面積値を用いて主成分分析(PCA)を行うと、第1主成分は全分散の44.1%を説明し、窒素吸収量の違いを反映する。第3主成分は、全分散の8.8%を説明し、堆肥施用量の違いを反映する(図)。これらの結果は線型モデルで得られた有意な要因と矛盾しない。
  • 堆肥が代謝成分に与える影響に着目すると、窒素吸収量、麦稈、緩効性窒素、リン、カリ施用量で説明できない成分変動の存在が推察される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、北海道の多腐植質黒ボク土において牛糞麦稈堆肥(C/N比:9.6)を5年間連用(堆肥区のプロット位置は固定)して栽培されたコマツナより得られたものである。栽培条件の詳細は発表論文を参照のこと。
  • 線形モデルでは、代謝成分に対して強い要因効果を持っている窒素吸収量による効果とそれ以外の要因効果を分けて解析をしている。すなわち、表に示す堆肥や緩効性窒素肥料の効果の中に窒素吸収量の増加を介した効果は含まれていない。詳細は発表論文を参照のこと。
  • 本手法の活用により、作物の品質と栽培法との関係を解析する研究や、より効率的な品質管理方法の提示につながる。

具体的データ

 表,図

その他

  • 中課題名:寒地畑輪作における根圏の生物機能を活用したリン酸等養分の有効利用技術の開発
  • 中課題番号:151a2
  • 予算区分:交付金、委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2009-2010年度
  • 研究担当者:岡崎圭毅、岡 紀邦、信濃卓郎
  • 発表論文等:Okazaki et al. (2012) Soil Sci.Plant Nutr. 58: 696-706