北海道の水田転換畑から発生する一酸化二窒素は黒ボク土より泥炭土で大きい

要約

一酸化二窒素発生量は、黒ボク土水田転換畑に比べ泥炭土水田転換畑で顕著に大きい。泥炭土水田転換畑の高い一酸化二窒素発生は9月~10月にかけて観測される。さらに、泥炭土水田転換畑では、慣行耕起栽培に比べ不耕起栽培で一酸化二窒素発生量が増加する。

  • キーワード:一酸化二窒素、水田転換畑、黒ボク土、泥炭土、不耕起栽培
  • 担当:気候変動対応・気象災害リスク低減
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

一酸化二窒素は、二酸化炭素、メタンとともに地球温暖化にとって重要なガスである。二酸化炭素の約300倍の温室効果作用を持つとともに、成層圏オゾン層の破壊をもたらすガスとしても知られている。我が国の一酸化二窒素総排出量の約50%は農業活動に由来し、農地への化学肥料や有機物施用、家畜排せつ物処理によって、主に、畑地や草地から発生する。本研究は、栽培作物、土壌タイプ、耕起の有無が一酸化二窒素発生量におよぼす影響を明らかにすることを目的とし、北海道の作付けパターンが異なる同一の黒ボク土水田転換畑(作付けパターン:春小麦-大豆-春小麦、大豆-春小麦-大豆)および、泥炭土水田転換畑(秋小麦連作)を対象に、モニタリング調査を行った。

成果の内容・特徴

  • 黒ボク土の同一耕起条件において、栽培作物間で一酸化二窒素発生量の季節変化を比較すると、小麦作に比べて大豆作で高く推移し(図1A、B)、特に、8月から9月にかけて高くなる傾向がある。これは、大豆の枯死した根や根粒といったC/N比が小さい有機物の供給が要因であると考えられる。
  • 一酸化二窒素発生量は、黒ボク土水田転換畑に比べ、泥炭土水田転換畑で顕著に大きく(図1)、特に、9月から10月に顕著に高い値が観測される(図1C)。この時期は降水量が多く、泥炭土圃場は、黒ボク土圃場に比べ土壌水分が高くなる。泥炭土圃場で、一酸化二窒素発生量が高くなった要因は、主に、脱窒の寄与であると推察される。
  • 慣行耕起栽培、不耕起栽培で一酸化二窒素発生量の季節変化を比較すると、黒ボク土水田転換畑では、両者に顕著な違いは見られない(図1A、B)。一方、泥炭土水田転換畑では、慣行耕起栽培に比べ不耕起栽培では、9月から10月に高く推移する(図1C)。
  • 一酸化二窒素年間発生量は、泥炭土水田転換畑では、慣行耕起栽培に比べ不耕起栽培で有意に増加する(図2)。
  • 一酸化二窒素年間発生量は、黒ボク土圃場では、慣行耕起栽培、不耕起栽培で、ほぼ等しい値である。一方、泥炭土では、不耕起栽培で、慣行耕起栽培に比べ、年間発生量は、約3倍になる(図2)。
  • 一酸化二窒素年間発生量を小麦作に限って比較すると、泥炭土圃場は、黒ボク土圃場に比べ、慣行耕起栽培では24倍、不耕起栽培では67倍と、黒ボク土に比べ、泥炭土は、不耕起栽培による一酸化二窒素発生量が増加する割合が顕著に大きい(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 不耕起栽培による温室効果ガス発生量インベントリに活用出来る。
  • 泥炭土圃場は、泥炭層の上に20cm程度、鉱質土壌が客土されている。
  • 不耕起栽培の期間は、測定期間の2年半から3年間である。

具体的データ

 図1~2

その他

  • 中課題名:気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
  • 中課題番号:210a3
  • 予算区分:委託プロ(地球温暖化)、交付金プロ(温室効果ガス軽減)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:永田 修、矢崎友嗣、杉戸智子、濱嵜孝弘、小林創平、鮫島良次、辻 博之
  • 発表論文等:Yazaki et al. (2011) J. Agric. Meteorol. 67 (3), 173-184