イネ品種「初山吹」胚乳由来の新規黄色色素oryzamutaic acid Aの構造
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要約
oryzamutaic acid Aは、「初山吹」胚乳由来の新規黄色色素であり、従来にない含窒素複素環骨格を有し、フラボノイドやカロテノイドなどの食品に広く含まれる黄色色素とは全く異なる。
- キーワード:水稲、初山吹、oryzamutaic acid A、黄色色素
- 担当:九州沖縄農研・イネ発酵TMR研究チーム
- 代表連絡先:電話0942-52-0670
- 区分:九州沖縄農業・水田作、作物
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
近年、九州沖縄農業研究センターでは、イネ品種「キヌヒカリ」にγ線処理することにより、胚乳が黄色を呈する極めて珍しい品種「初山吹」を育成した。「初山吹」は、飼料米としての識別性、酒造用掛け米、黄色を呈する米飯、色素原料などへの利用が期待されている。しかし、その色素の化学構造は明らかになっていない。そこで本研究では、「初山吹」の胚乳由来の黄色色素を単離・同定する。
成果の内容・特徴
- oryzamutaic acid Aは、「初山吹」胚乳由来の新規黄色色素であり、従来にない含窒素複素環骨格を有し、フラボノイドやカロテノイドなどの食品に広く含まれる黄色色素とは全く異なる(図1、2)。
- oryzamutaic acid Aは、分子式がC23H32N4O6{HRESIMS[高分解能エレクトロスプレーイオン化質量分析][m/z 461.2388 (M+H)+、Δ -0.6 mmu]により決定}で、不飽和度が10である。比旋光度は、 +403°(c 0.118、水)である。IR(赤外線)スペクトルの吸収は、3398 cm-1(水酸基)、2953 cm-1(水酸基)、1628 cm-1(カルボニル基)、および1587 cm-1(カルボニル基)にある。UV(可視紫外線)スペクトルの吸収極大は、395 nm(ε 17200)にある。
- oryzamutaic acid Aは、表1に示される1H NMR(核磁気共鳴)および13C NMRスペクトルおよび図1に示される1H-1H COSY(1H-1H同核間の相関)およびHMBC(遠隔1H-13C異核間の相関)スペクトルを持つ。
- oryzamutaic acid Aは、「初山吹」の胚乳を有機溶媒水溶液で抽出後、メタノール沈殿および種々のクロマトグラフィーで分離・精製できる(図3)。
成果の活用面・留意点
- oryzamutaic acid Aの関連化合物の探索およびその生合成経路の解明研究における基礎的な知見として利用できる。
- 「初山吹」の胚乳の安全性および機能性研究における基礎的な知見として利用できる。
- oryzamutaic acid Aの単結晶X線構造解析のデータは、www.ccdc.cam.ac.uk/conts/retrieving.html(あるいはCambridge Crystalographic Data Centre, 12 Union Road, Cambridge CB2 1EZ, UK; Fax: +44-1223-336-033; e-mail: deposit@ccdc.cam.ac.uk)から無料で得られる(CCDC 708650)。
具体的データ




その他
- 研究課題名:暖地における飼料イネ等の発酵TMR生産技術の開発による地域利用システムの構築
- 課題ID:212-b
- 予算区分:基盤、交付金(平成20年度ハイリスク・ハイインパクト)
- 研究期間:2006~2008年度
- 研究担当者:中野洋、小瀬村誠治(慶應義塾大学)、鈴木利貞(香川大学)、
広瀬克利(神戸天然物化学株式会社)、梶亮太、坂井真
- 発表論文等:Nakano et al. (2009) Tetrahedron Letters 50(17), 2003-2005.
中野ら「色素化合物およびその製造法」特願2008-245585