耕地化に伴う土壌重金属類(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn)含有率の変化

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要約

耕地化に伴う土壌重金属類含有率は、鉄やコバルト、ニッケルでは耕地化以前の含有率に影響され、耕地・未耕地ともに、鉄、コバルトの値はほとんど変わらない。亜鉛やマンガンの値は多くの圃場で増加し、亜鉛は耕地化後の有機物施用に大きく影響される。

  • キーワード:耕地化、土壌重金属元素、含有率変化、影響因子
  • 担当:九州沖縄農研・土壌環境指標研究チーム、九州畑輪作研究チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-7763
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

これまで、営農が土壌中の重金属含有率に与える影響については、農耕地の重金属賦存実態解明の過程で、地域毎に個々に検討されてきた。特に耕地・未耕地の違いについては、土地利用や土壌型の観点から解析や取りまとめがなされることが多く、結果が地域によって異なるなど、耕地化に伴う土壌重金属元素への影響や要因については十分解明されていない。そこで、九州の主要な土壌型を対象に、農地と隣接する未耕地の重金属類含有率を比較・整理し、耕地化、特に有機物施用や土壌特性がこれらに及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 耕地におけるコバルトや鉄やニッケルの含有率は未耕地時の含有率に強く影響される。両者の鉄やコバルトの含有率はほとんど変わらない。一方、マンガン、銅、亜鉛は耕地化に伴って大きく変化し、亜鉛やマンガンは大半の圃場で増加する(図1)。
  • ニッケルの含有率の変化量は、土壌タイプや土地利用、また、有機質資材施用の違い(データ略)に影響されず、畑地化する以前の土壌の元素含有率(図1,2)や全炭素含量(データ略)、陽イオン交換容量(データ略)など土壌特性と関係する。耕地化に伴うニッケル含有率は、未耕地のニッケル含有率が数十(mg/kg)以下では同等もしくは増加、数十 (mg/kg)以上では減少する傾向がある(図2)。
  • 亜鉛や銅(データ略)では含有率の変化量は耕地化する以前の土壌の対象元素の含有率(図3左)などと相関が認められるものの不明確で、有機質資材施用の違いに大きく影響される(図3右)。

成果の活用面・留意点

  • フッ化水素酸分解法・ICP発光分析で表層土壌の重金属元素類の全量分析を行った。畑・樹園地・草地の元素含有率から、隣接する未耕地(主に林地)の含有率を差し引いた値を、耕地化に伴う元素含有率の変化とした。
  • 昭和62年から平成5年にかけて収集した九州内の試験場耕地および隣接未耕地の試料、さらに、ニッケル、銅、亜鉛の分析には平成18年に鹿児島県農業開発センター大隅支場および長崎県総合農林試験場の連用圃場で採取した試料も加えて分析・解析した。
  • 土壌重金属類の動態研究の基礎資料となるとともに、整備されつつある地球化学図を併用すれば、畑や樹園地等の鉄、コバルト、ニッケルの元素含有率推定の参考となる。

具体的データ

図1.耕地および隣接する未耕地の表層土壌中の元素含有率(mg/kg)の関係、ただし鉄とマンガンは(%)。 横軸:未耕地、縦軸:耕地、鎖線は1対1を表す

図2.Niにおける未耕地の元素含有率と耕地化に伴う元素含有率の変化との関係 横軸:未耕地の元素含有率(mg/kg)、縦軸:耕地元素含有率(mg/kg)と未耕地の元素含有率(mg/kg)の差;(耕地での値)-(未耕地での値)

図3.左:未耕地のZn含有率と耕地化にZn元素含有率の変化との関係 右:左図での連用圃場の値のみ表した図、ただし各圃場ともに縦軸の値が小さい方から圃場〇―A,圃場〇―B,圃場〇―C,圃場〇―Dと表記。 圃場1―A:化学肥料、圃場1―B:化学肥料+豚ぷん堆肥(0.34t/10a)、圃場1―C:豚ぷん堆肥(0.68t/10a)、圃場1―D:牛ふん堆肥(0.68t/10a)、圃場2―A:化学肥料、圃場2B:化学肥料+モミガラ牛ふん豚ぷん堆肥(1.5t/10a) 、圃場2―C:化学肥料+モミガラ牛ふん豚ぷん堆肥(3t/10a) 、圃場3―A:化学肥料、圃場3B:化学肥料+牛ふん堆肥(4t/10a)、圃場3―C:化学肥料+牛ふん堆肥(8t/10a) 、圃場4―A:化学肥料、圃場4―B:牛ふん堆肥(6t/10a) 、圃場3―C:化学肥料+牛ふん堆肥(6t/10a) 横軸:未耕地の元素含有率(mg/kg)、 縦軸:耕地元素含有率(mg/kg)と未耕地の元素含有率(mg/kg)の差;(耕地での値)-(未耕地での値)

その他

  • 研究課題名:有機質資材多投入地帯における合理的な資材施用のための土壌環境指標及び土壌管理技術の開発
  • 課題ID:214-q.2
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(日本型有機農業)
  • 研究期間:2006年~2010年
  • 研究担当者:草場敬、久保寺秀夫、新美洋