水稲の非構造性炭水化物蓄積量の施肥・気象条件による変動

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要約

出穂期の稲体に存在する糖類や澱粉等の非構造性炭水化物の蓄積量は、施肥条件により大きく変動し、葉面積や籾数等の生育量が大きい条件下で少なくなる傾向にある。登熟性への影響も認められ、低温・寡照年における生育診断指標として重要である。

  • 担当:農業研究センター作物生理品質部稲栽培生理研究室
  • 連絡先:0298-38-8952
  • 部会名:水田・畑作物
  • 専門:栽培
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

気象条件が変動する中で水稲の安定生産を確保するためには、生育診断技術を高度化して、的確な栽培管理を行う必要がある。稲体に遊離の状態で存在する糖類や澱粉等の非構造性炭水化物は、物質生産を通じて収量に影響するとともに、冷害、冠水、フェーン等の気象災害に対する水稲の抵抗性を高める機能を持つと推定されている。そこで、非構造性炭水化物蓄積量を生育診断の一要素として活用するための基礎資料を得るために、気象条件が異なる年次に水稲品種コシヒカリの施肥条件を様々にかえた栽培試験を実施し、非構造性炭水化物として酸可溶性全炭水化物(NSCと略称)と澱粉の挙動を調査する。

成果の内容・特徴

  • 試験年次の内平成5年は低温・寡照年、平成6年は高温・多照年であり、成熟期乾物重及び収量は6年が高い。出穂期における標準施肥区の非構造性炭水化物蓄積量は、NSCは6年が少ないが、澱粉は逆に多くなる(図1、表1)。
  • 施肥条件と非構造性炭水化物蓄積量の関係では、低温・寡照の5年には総じて基肥を施用しない場合の蓄積量が多く、基肥施用では穂肥無施用区で多い。高温・多照の6年においては、施肥と蓄積量の間に明瞭な関係は認められない(図2)。
  • 出穂期の生育形質との関係では、両年とも籾数や葉面積が大きい条件下で蓄積量が少ない。登熟形質との関係は年次により異なり、5年には蓄積量が多いほど初期登熟を促進して成熟期の登熟度が高いが、6年には明瞭な影響は認められない。これらの影響はNSCより澱粉において顕著に現れる(表2)。
  • 以上、稲体の非構造性炭水化物蓄積量は生育量、環境条件によって大きく変動するので、生育診断の指標として有効であると推定される。とくに、平成5年のような低温・寡照年における水稲の「体質」判定基準として重要であり、活用の効果は大きいと判断される。

成果の活用面・留意点

  • 非構造性炭水化物蓄積量、籾数生産ともに高くなる栽培法について検討する必要がある。
  • 異なる栽培法における水稲生育の評価指標として用いることができる。
  • 簡易迅速測定法の開発により、適用場面が拡大される。

具体的データ

図1.平成5年と平成6年の気象条件

図2.施肥法と出穂期の非構造性炭水化物蓄積量との関係

表1.平成5年と6年における生育・収量の比較

表2.出穂期の非構造性炭水化物含量と各種要因と相関関係

その他

  • 研究課題名:環境変動に対応した水稲の生育制御技術の開発
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年~9年