土壌リン脂質脂肪酸含量の測定による淡色黒ボク土の可給態窒素量の推定

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要約

淡色黒ボク土壌から抽出したリン脂質に含まれる脂肪酸は細菌に特異的な脂肪酸の割合が高く、その含量は土壌細菌数を反映しており、可給態窒素量の推定に利用できる。

  • 担当:農業研究センター土壌肥料部畑土壌肥料研究室
  • 連絡先:0298-38-8828
  • 部会名:生産環境
  • 専門:土壌
  • 分類:研究

背景・ねらい

土壌細菌の細胞膜由来の物質であるリン脂質には植物・動物のリン脂質にはほとんど含まれない分枝脂肪酸、環状脂肪酸、バクセン酸が含まれている。このことを利用して、土壌から抽出したリン脂質の脂肪酸組成を分析することにより、土壌細菌の生態に関する情報が得られることが期待される。そこで堆肥施用歴の異なる圃場の土壌について、リン脂質の脂肪酸組成と含量、可給態窒素及び細菌数の分析を行った。

成果の内容・特徴

  • 方法:土壌10gに水4ml,クロロフォルムーメタノール(1:2)27mlを加え、30分間振とう後遠心分離した。上清にクロロフォルム9ml、水9mlを加え遠心分離し、下層を窒素ガス下で濃縮し全脂質とした。固層抽出カートリッジ(SEP-PACK-SIL)でリン脂質画分を分画した後、脂肪酸メチルエステル及び脂肪酸ピロリジド誘導体を調整し、ガスクロマトグラフィー-質量分析計(HP5971A、カラムHP-5)で同定を行った。定量はノナデカン酸を内部標準として用いて行った。土壌細菌数は直接検鏡法により求めた。淡色黒ボク土に堆肥(2t,4t,8t/10a)を28年間連用した圃場の土壌について分析した結果、土壌リン脂質脂肪酸のうち細菌由来とみなされる分枝脂肪酸、環状脂肪酸、バクセン酸(18:1ω7)の割合はそれぞれ25-34%,8-9%,7-8%を占めた(図1)。
  • 土壌細菌数と土壌リン脂質脂肪酸含量の間には高い相関が認められた(図2)。
  • 土壌中のリン脂質脂肪酸含量は堆肥施用量に伴い増加する傾向にあり、可給態窒素量と相間が高かった(図3)。
  • これらのことから、淡色黒ボク土の土壌リン脂質脂肪酸含量は土壌細菌数を反映しており、可給態窒素量の推定に利用できることが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

他の土壌に適用するには回帰式を土壌ごとに求める必要がある。脂肪酸含量はガスクロマトグラフィー-質量分析計のかわりにFID付きガスクロマトグラフィーでも分析可能である。

具体的データ

図1.堆肥施用量の異なる圃場の土壌リン脂質脂肪酸中の細菌に特異的な脂肪酸の割合

 

図2.土壌リン脂質脂肪酸含量と土壌細菌数の相関

 

図3.土壌リン脂質脂肪酸含量と4週間培養窒素との相関

 

その他

  • 研究課題名:小麦の養分吸収特性からみた黒ボク土の有機物管理技術
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(平成3~7年)