リョクトウ野生種に見出された殺虫性ペプチド

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要約

リョクトウ野生種の一系統TC1966に由来する殺虫性物質が3個のアミノ酸と1個のオキシ酸から成る環状ペプチドであることを解明した。本物質は、植物に初めて見出された殺虫効力を持つペプチド様物質である。

  • 担当:農業研究センター 作物開発部 豆類育種研究室、理化学研究所 植物機能研究室
  • 連絡先:0298-38-8503、048-462-1111
  • 部会名:作物生産
  • 専門:育種
  • 対象:豆類
  • 分類:研究

背景・ねらい

農薬に過度に依存しない環境保全型農業の確立が求められている。以前、リョクトウ野生種の一系統TC1966のもつアズキゾウムシ抵抗性が単一の優性遺伝子(R)に支配されることを明らかにした。抵抗性系統は、ヨツモンマメゾウムシ等の他のマメゾウムシやダイズの害虫であるホソヘリカメムシ等に対しても生育阻害性を示した。この度、抵抗性の原因物質が新規な環状ペプチドであることを解明した。新しい殺虫性物質として有効利用および作物の耐虫性育種への応用が期待される。

成果の内容・特徴

  • アズキゾウムシ感受性品種大阪リョクトウを反復親としてTC1966から抵抗性を取り込んだ同質遺伝子(BC20F4)系統のアセトン脱脂種子粉を80%エタノール(EtOH)で抽出し、本乾燥物を大阪リョクトウ粉をベースとする人工豆に10%混合するとアズキゾウムシ幼虫の成育は著しく阻害されたが、大阪リョクトウの抽出物を10%混合しても生育阻害は認められなかった。
  • 80%EtOH抽出物の水-ブタノール2液分配のブタノール層に阻害活性を認められたので、本画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析・比較した。その結果、45%アセトニトリルでの溶出において、抵抗性系統は感受性の大阪リョクトウには認められない特徴的な2つのピークを与えた(図1A、B)。
  • そこで、主要ピークに溶出する物質を量的に多くかつ高度に濃縮し、人工豆に本純化物質を0.3-0.4%混入したところアズキゾウムシは1~2齢で死亡した。
  • 以上の結果から、上記主要ピークに溶出する物質がTC1966に由来する主要な殺虫物質と判定し、GIF-1とした(図1)。GIF-1を高度に純化し、質量分析および核磁気共鳴分析を駆使して化学構造を解析した結果、本物質は、3個のアミノ酸(フェニルアラニン、ヒドロキシロシン、チロシン)と1個のオキシ酸が結合したププチド様化合物であることが分かった(図2)。また、抵抗性系統に常に付随するもう一つのピーク物質(GIF-2と仮称)はGIF-1のフェニルアラニンがロイシンに変化した構造をもち殺虫活性がないことを示した。

成果の活用面・留意点

本物質は植物由来の殺虫性ペプチドとしては初めての物質である。今後、本物質の有効利用を図るためには、化学構造と阻害活性の関係を明らかにして本物質の作用様式を解明するとともに本物質を生産する遺伝子構造を解析することが必要と考えられる。

具体的データ

図1.大阪リョクトウ(A)及びアズキゾウムシ抵抗性のBC20F4系統(B)のHPLCパターン

 

図2.GIF-1(1):R=C6H5とGIF-2(2):R=CH(CH3)2の構造

 

その他

  • 研究課題名:バイオテクノロジーを用いた新育種素材の作出
  • 予算区分:バイテク植物育種・経常
  • 研究期間:平成7年度(平成3年~8年)