水田雑草の除草剤抵抗性バイオタイプの動態を予測する個体群動態モデル
要約
本モデルは除草剤抵抗性遺伝子の動態に基づき抵抗性バイオタイプの個体群動態を推定するモデルである。本モデルにより、抵抗性バイオタイプの顕在化や埋土種子量の増減に及ぼす雑草管理方法の影響を簡易に知ることができる。
- キーワード:除草剤抵抗性、水田雑草、個体群動態モデル
- 担当:中央農研・雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8426
- 区分:共通基盤・雑草
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
1990年代後半、水田雑草でスルホニルウレア系除草剤(SU剤)に抵抗性を示すバイオタイプ(SU抵抗性バイオタイプ)の出現が報告され、現在は全国でこれらの出現が認められている。現在は抵抗性対策剤と呼ばれる有効剤が市販され、その防除が容易になっているが、いったん生産された除草剤抵抗性バイオタイプの種子は埋土種子として水田に残るため、その長期的な雑草管理方法を明らかにする必要がある。そこで除草剤抵抗性バイオタイプの個体群動態モデルを作り、雑草管理方法が長期的な除草剤抵抗性個体群の動態に与える影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 本モデルは、下記のように簡易に除草剤抵抗性バイオタイプの個体群動態を推定するモデルである(図1)。
1)設定した除草剤抵抗性(R)遺伝子初期頻度、感受性(S)遺伝子初期頻度および初期埋土種子密度から、各遺伝子
型(RR,RSおよびSS)の埋土種子密度を求める。
2)埋土種子密度と出芽率などから算出される出芽密度と、SU剤および抵抗性対策剤の効果などから、各遺伝子型
の成熟個体密度を求める。
3)各遺伝子型の比率と設定した近交係数などから、交雑後の各遺伝子型の種子生産量を求め、これを各遺伝子型
の埋土種子密度に算入する。
4)新鮮種子や埋土種子の死滅率などから、翌年の埋土種子密度を求める。
5)表現型が抵抗性となる遺伝子型RRおよびRSの埋土種子密度と成熟個体密度を集計し、抵抗性バイオタイプの動
態として表計算ワークシートでグラフ表示する。
- 例えば水田雑草イヌホタルイのSU抵抗性バイオタイプの個体群動態を本モデルで試算すると下記のことが分かる。
1)抵抗性が顕在化していない水田でSU剤と抵抗性対策剤のローテーションを行うと、抵抗性顕在化までの期間が約
2倍に延びる(表1、図2)。
2)抵抗性バイオタイプがいったん顕在化した水田では、抵抗性対策剤によって抵抗性バイオタイプを10年間完全に
防除しても、埋土種子は顕在化した年の密度までしか減少しない(表1、図3)。
成果の活用面・留意点
具体的データ




その他
- 研究課題名:難防除雑草バイオタイプのまん延機構の解明及び総合防除技術の開発
- 中課題整理番号:214b
- 予算区分:基盤、受託研究、科研費(基盤研究C)
- 研究期間:2006?2010年度
- 研究担当者:内野彰、今泉智通、浅井元朗