野菜成分の白血病細胞に及ぼす影響

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要約

白血病細胞分化誘導作用を示す食品はがん予防に奇与する可能性があると考えられる。
本研究ではホウレンソウやナス等の野菜類の水溶性高分子画分がU-937白血病細胞の分化を誘導することを明らかにした。
また、ホウレンソウ中の分化誘導因子の1つは分子量670kDa以上の多糖であることを明らかにした。

  • 担当:食品総合研究所・食品機能部・機能成分研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8055
  • 部会名:食品
  • 専門:食品品質
  • 対象:葉菜類、果菜類
  • 分類:研究

背景

緑黄色野菜がヒトのがんの予防に効果的であることが疫学的研究から示唆されているが、がん予防に働く成分及びその作用機構については十分には解明されていない。
一方、白血病細胞は分化の異常により生じることから、白血病細胞分化誘導作用を示す食品成分はがん予防に働く可能性がある。
そこで野菜中の成分のがん予防効果の解明を目的として、各種野菜類の白血病細胞分化誘導作用を検討すると共に、ホウレンソウ中に含まれるヒト白血病細胞分化誘導因子の分離を行った。

成果の内容・特徴

  • 野莱類及びその他の食用植物は生理的リン酸緩衝液で抽出した後、80%硫安沈澱物を透析・凍結乾燥して水溶性高分子画分とした。
  • 各種野菜類およびその他の食用植物の水溶性高分子画分をU-937白血病細胞の培地中に加えて培養した結果、ナス、インゲン、キュウリ、ネギ、パセリ、ギ、ムネマシルベスタおよびミシマサイコの水溶性高分子画分が、マクロファージへの分化指標である細胞表面抗原 CDl1b および CD36 の発現量を増加させた。このことから、これらの水溶性高分子画分中に U-937 細胞分化誘導因子が存在している可能性が示唆された(表1)。
  • ホウレンソウ水溶性高分子画分を DEAE-Toyopearl 650 イオン交換クロマトグラフィー、Sephadex G-100 カラムクロマトグラフィー、RCAl20 agarose gel クロマトグラフィーにより分画し、U-937 細胞分化誘導作用を示す活性画分 DGR2 を得た。
  • DGR2 画分を TSK gel G4000SWxL カラムクロマトグラフィーにより分画した結果、分子量約670kDa以上に相当する Fr.1画分においてのみ U-937 細胞分化誘導活性が認められた(図1及び表2)。
  • 活性画分 Fr.1 のタンパク質、中性糖および酸性糖含量を測定した結果、活性画分は約2%のタンパク質を含む多糖であり、その糖の約14%が酸性糖であることが明らかになった(表3)。

成果の活用面・留意点

本研究によりホウレンソウをはじめとする食用植物の水溶性高分子画分およびホウレンソウの多糖成分の白血病細胞分化誘導作用が明らかになった。
これらの結果は、実験動物を用いたin vitroでの活性の確認、ヒトでの臨床実験等を経る必要があるが、白血病細胞分化誘導作用を有する野菜類やその成分ががん予防等に役立つ可能性を示唆するものである。

具体的データ

表1 野菜類およびその他の食用植物のU-937ヒト白血病細胞株の分化に及ぼす影響
表2 ホウレンソウDGR2画分のTSKgel G4000SExLカラムクロマトグラフィーによる分画画分のU-937細胞の形態および細胞表面抗原の発現量に及ぼす影響
表3 ホウレンソウ中のU-937細胞分化誘導因子の糖およびタンパク質含量
図1 ホウレンソウDGR2画分のTSKgel G4000SWxLカラムクロマトグラフィーによる溶出パターン

その他

  • 研究課題名:野菜中の成分のがん予防効果の解明
  • 予算区分:一般別枠(健康機能)
  • 研究期間:平成6年度(平成5年~7年)
  • 研究担当者:小堀真珠子、新本洋士、津志田藤二郎
  • 発表論文等:Characteristics of U-937 and HL-60 leukemia cells differentiated by spinach extract.M.Kobori,S.Shimizu and K.Shinohara,Cytotechnology,16,59(1994).
                      Effects of some edible plants on the differentiation of U-937 human myeloid leukemia cells.M.Kobori、Y.Miyama.T.Tsushida,H.Shinmoto and K.Shinohara,Thai.J.Pharm.Sci., l7,175(1994).