抗カビ性を有するキチン結合性リポプロテイン

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要約

バチルス属細菌の培養液から、新規リポプロテインCB-1を精製し、その諸性質を明らかにした。
本物質はキチン結合性を有し、植物病原性や木材腐朽性の糸状菌の生育を強力に阻害し、さらに昆虫の脱皮を抑制した。

  • 担当:食品総合研究所・生物機能開発部・細胞機能研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8050
  • 部会名:食品
  • 専門:薬剤
  • 対象:腐敗菌・昆虫
  • 分類:研究

背景

キチン質は多糖類の一種で、糸状菌の細胞壁や昆虫の外皮などに存在するが、高等動物や植物には含まれない。
したがって、キチンを標的とする物質は、糸状菌や昆虫の生育を選択的に制御することが可能である。
そのような性質を有するものとして、キチン合成酵素阻害剤、キチン分解酵素およびキチン結合性ペプチド等がこれまでに報告されている。

成果の内容・特徴

  • 当研究室で分離された細菌 batillus licheniformis 培養液から精製(収量約50mg/l)されたCB-1は、分子量が約42kDaで、l0種類のアミノが含まれ、特にグルタミン酸とチロシン、ついでバリンとリジンの比率が大きかった(表1)。脂肪酸はC14-18の飽和脂肪酸(一部メチル岐分鎖)とCl8:1の不飽和脂肪酸が検出された(表2)。以上の結果から、CB-1が新規のリポロテインであることが確認された。
  • CB-1は2μg/mlの低濃度で、イネいもち病菌(Pyricularia oryzae)の菌糸伸長を50%阻害し、供試した他の植物病原性や木材腐朽性の糸状菌の生育も強力に阻害したが、細菌や酵母には効果がなく、抗菌力の種特異性が高いことが明らかとなった(表3)。さらに、オートクレーブやpH 2~11で処理しても、抗菌力の低下は認められなかった。またコクゾウ幼虫に対しては、餌の玄米粉にCB-1を1%添加したところ、全個体が死滅した。
  • キチンパウダー処理したCB-1溶液を培地に添加したところ、抗菌活性が著しく低下し(図1)CB-1がキチンパウダーに吸着することが示されたが、CB-1自体にキチナーゼ活性は検出されなかった。したがって、CB-1がキチンに結合し、糸状菌細胞壁の正常な形成の撹乱によって、菌糸伸長が阻害されていると推察された。

成果の活用面・留意点

CB-1は酵素ではないため、物理的および化学的に安定であり、さらに生物種の選択性も高いことから、作物防除剤、木材防護剤および殺虫剤としての用途が期待される。
また、糸状菌の菌糸伸長時におけるキチン代謝の機構解明にも寄与する。

具体的データ

表1 CB-1のアミノ酸組成
表2 CB-1の脂肪酸組成
表3 CB-1の抗菌スペクトル
図1 キチンパウダー処理したCB-1溶液の抗菌力

その他

  • 研究課題名:キチン結合性蛋白質の精製と諸性質の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成6年度(平成4~6年)
  • 研究担当者:老田 茂、柳 園江
  • 発表論文等:新規キチン結合性蛋白CB1ならびにその製造法と用途(特許公報 平・94478)その他、カナダ、フランス、オーストラリアで特許取得。
                      平成6年日本生物工学大会講演要旨 p.143
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