微生物二次代謝誘発機構の解明(Stringent response(PPGpP)の解析)

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要約

ppGpp蓄積能の顕著な低下を示すrelC変異株を用いて、ppGppか放線菌の二次代謝における直接の誘発物質であることを示した。これらrelC変異は、リボゾーム蛋白L11の限定されたアミノ酸配列領域に生じた欠失変異であることを明らかにした。

  • 担当:食品総合研究所・生物機能開発部・変換機能研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8125
  • 部会名:食品
  • 専門:ハイテク
  • 対象:微生物
  • 分類:研究

背景

本研究室では多くの放線菌株において、顕著なppGpp蓄積能の低下をまねくrelC変異株(リボゾームL11遺伝子に変異を持つと考えられる)が、同時に二次代謝能の消失を伴うことを見出した。すなわち、ppGppが放線菌二次代謝の直接の誘発物質であることを明らかにしてきた。本研究では、ppGppの作用機構解明の一貫として、すでに得られているrelC変異の遺伝子レベルでの実体の究明を行った。

成果の内容・特徴

  • Streptomyces griseusのrelC株のL11蛋白遺伝子の塩基配列を決定した結果、12塩基(4アミノ酸相当)の欠損が起きていることを明らかにした(図1)。
  • S.lavendulaeのrelC株についても解析した結果、Ll1蛋白にアミノ酸の欠失が生じており、しかもその位置はS.griseusで見出した欠失部位の極めて近くに存在した(図1)。
  • 両放線菌株のrelC変異株は、二次代謝能の消失に加え、胞子形成能の消失と増殖能の低下を示した。L11蛋白は、リボゾームの構成成分としてすなわちタンパク合成に関わる機能と環境変化(栄養欠乏等)のシグナルをPPGpP合成酵素へ伝え活性化させるセンサーとしての機能の二面性を持つと考えられる。4アミノ酸の欠損は、両機能に影響を及ぼすために二次代謝以外にも機能低下が観察されたと考えられる。
  • PCRを用いた欠失変異を見出す新しい手法を開発した。この手法を用いて、S.coelicolorから、理想的なrelC欠損変異株を得ることに成功した。この変異株は、2アミノ酸を欠失しその位置は、S.griseusの欠失部位に隣接していた(図1)。この変異株も他の放線菌株のrelC変異株同様顕著なppGpp蓄積能の低下を示した(図2)。しかもこの変異株は抗生物質生産(二次代謝)能の消失を示すが、増殖能および胞子形成能は正常であった。さらに、この変異株に低コピーベクターを用いてLl1野生型構造遺伝子を導入すると、ppGpp蓄積および二次代謝能は回復した。
  • 以上の結果から、L11リボゾーム蛋白のN末端近傍の限られたアミノ酸配列領域(20~50番目)が、細胞内ppGpp蓄積のための情報伝達をになう機能ドメインであることが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

放線菌のrelC変異の実体を遺伝子レベルで明らかにした。そして、リボゾーム蛋白L1lの細胞内ppGpp蓄積への情報伝達に関与するアミノ酸配列領域を明らかにし、細胞機能改変すなわちリボゾーム工学開発への布石となるための有力な情報をもたらすことができた。

具体的データ

図1 Streptomyces属菌株のLl1リボゾーム蛋白アミノ酸配列に関する野生株とrelC変異株の比較
図2 S.coelicolorの野生株とrelC変異株の栄養シフトダウンにおけるppGpp蓄積能比較

その他

  • 研究課題名:微生物の二次代謝誘発機構の解明(Strinent response(ppGpp)の解析)
  • 予算区分:科振調(省際)
  • 研究期間:平成7年(5年~7年)
  • 研究担当者:越智幸三、川本伸一、島 純、稲津康弘
  • 発表論文等:Ochi,K.and Y.Inatsu;Actinomycetologica 9,184-187 ( 1995).
                      Pfefferle, U, K.Ochi and H.P.Fiedler;Actinomycetologica 9,118-123 ( 1995) .
                      Kawamoto, S.and J.C.Ensign;Actinomycetologica 9,124-135 (1995).
                      Kawamoto, S.and J.C.Ensign;Actinomycetologica 9,136-151 (1995).
                      Itoh.M.A.Penyige, S.Okamoto and K.Ochi;FEMS Microbiol.Lett.1996 (Jan.issue).
                      Shima, J.A.Penyige and K.Ochi;J.Bacteriol.(1996,in press)
                      川本伸一,稲津康弘,越智幸三 日本農芸化学会(札幌),p.6(1995).
                      川本伸一,越智幸三 日本放線菌学会,p.16(1995).