多点シートセンサによる食品の咀嚼圧計測

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要約

開発した咀嚼用多点シートセンサを用いて、臼歯部で物性の異なる種々の食品の咀嚼圧を計測した。咀嚼力対時間曲線における一噛み目の第一ピークは食品の破断特性を表していたが、これは最大咀嚼圧とは異なる性質であった。

  • 担当:食品総合研究所・食品機能部・食品物理機能研究室
  • 代表連絡先:食品物理機能研究室 0298-38-8031
  • キーワード:食品物性、咀嚼、圧力分布、テクスチャー、多点計測、ヒト
  • 分類:普及成果情報

背景

日本人は60歳代で歯を失う人が多く(厚生労働省・平成11年歯科疾患実態調査報告)、よく噛めない高齢者の増加は社会問題である。ヒトが食品を咀嚼するときの圧力計測から食品物性と咀嚼性との関係を明らかにし、高齢者向け食品開発に資する。

成果の内容・特徴

  • 開発したMSCAN2センサ(図1)を用いて、被験者を選ばず、高速に、咀嚼力と歯と食品との接触面積が測れ、臼歯部による咀嚼圧が求められた(図2)。
  • 個人差は咀嚼力及び時間の絶対値に見られたが、咀嚼力対時間曲線(図3)のパターンは試料物性により特色があった。生人参では鋭い2ピーク、ゲル状の羊羹ではなめらかな2ピーク、パリパリしたクラッカーと煎餅では多数のピークが咀嚼曲線に現れたが、スポンジ状の食パンでは後期に唯一のピークが観察された。
  • 咀嚼曲線の第一ピークは試料の破壊によるもので、力を接触面積で除した実効圧力は試料の破壊応力と対応し、被験者依存性は弱かった。インストロンによる等速圧縮試験結果と同様、脆いクラッカーと煎餅は第一ピークが短時間に出現し、低い力を示した。
  • 歯が開く直前に現れる最後のピークは、第一ピークの大小関係とは異なり、食パン、クラッカー、煎餅、羊羹では最大咀嚼力に近かった。
  • 破断特性の異なる3種のすり身ゲルについて、同様に咀嚼曲線を調べた(図4)。試料X、Yよりも、第一ピークの力、圧力、時間が小さい試料Zは、レオメータによる試験でジェリー強度(破断力×貫入距離)が低く、官能試験でも軟らかいと評価された。
  • 最大実効圧力を示す最後のピークにおいては、実効圧力は食品テクスチャーによっては変化せず、個人の咀嚼力を反映していることが示唆された。
    以上から、臼歯による食品咀嚼一回目に現れる最大力は、必ずしも食品のテクスチャーを反映するものではなく、従って通常の機器測定では測れないことがわかった。食品の機器測定による破壊応力は、咀嚼曲線における第一ピークの実効圧力に対応し、破壊ひずみは第一ピーク出現時間に相関することが明らかになった。

成果の活用面・留意点

1.咀嚼用センサは注文生産のため、1枚約15,000円と高い。大量生産によるコストダウンが望まれる。

具体的データ

図1 MSCAN2シートセンサ

その他

  • 研究課題名:食品物性の咀嚼量に対する効果の解明
  • 予算区分:委託費プロ(食品成分)
  • 研究期間:2000~2001年度 (2001年度)
  • 研究担当者:神山かおる
  • 発表論文等:1) Kohyama, K., Sakai, T., Azuma, T., Mizuguchi, T. and Kimura, I.: Pressure distribution measurement in biting surimi gels with molars using a multiple-point sheet sensor. Biosci. Biotechnol. Biochem., 65 (12), 2597-2603 (2001)
                      2) Kohyama, K., Sakai, T. and Azuma, T.: Patterns observed in the first chew of foods with various textures. Food Sci. Technol. Res., 7(4), 290-296 (2001)
                      3) 神山かおる:咀嚼解析による高齢者が噛みにくい食品の解明, 食品工業, 44(20), 18-24 (2001)
                      4) 神山かおる:口腔内直接計測による食品物性の評価.『老化抑制と食品-抗酸化・脳・咀嚼-』, 独立行政法人食品総合研究所編, アイピーシー, pp. 296-307 (2002)