食餌脂肪酸・タンパク質によるエネルギー代謝組織の遺伝子発現制御

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要約

定量的RT-PCR法を用いてmRNAを定量する方法を開発した。食餌として摂取する共役リノール酸やタンパク質の種類がエネルギー代謝組織の脂肪酸・糖質代謝に影響を及ぼし、遺伝子発現レベルで変化させることを示した。

  • 担当:食品総合研究所・食品機能部・栄養化学研究室
  • 代表連絡先:栄養化学研究室 0298-38-8083
  • キーワード:共役リノール酸、タンパク質、定量的RT-PCR法、脂肪酸・糖質代謝
  • 分類:参考

背景

油脂などの食品成分には肝臓や脂肪組織での脂質代謝を調節する機能があることから、食生活の改善により生活習慣病の予防が可能と思われる。本研究では、エネルギー代謝器官で高発現する脂肪酸・糖質代謝関連因子の遺伝子発現量を高感度かつ簡便に定量する方法を開発し、この方法を用いて生活習慣病予防に有効な食品成分の作用機構を解明する。

成果の内容・特徴

  • 褐色脂肪組織の熱産生タンパク質である脱共役タンパク質1(UCP1)と内部標準遺伝子(グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH))の遺伝子産物をPCRで増幅し、アルカリホスファターゼ標識DNAプローブを用い、化学発光により検出した。化学発光強度は鋳型RNA量依存的に比例して増加するPCR条件を決定し(Fig.1)、少量の試料から複数の代謝調節因子遺伝子発現量を測定することが可能になった。
  • 共役リノール酸(CLA)は2系統(ICRおよびC57BL/6J)のマウスの脂肪組織重量を減少させたが、肝臓重量とその脂質含量を著しく増加させた(Fig.2)。肝臓脂肪酸合成系酵素発現の増加がCLAによる肝臓脂質含量増加の原因と考えられた。また、脂肪組織重量減少は白色・褐色脂肪組織グルコース輸送担体4(Glut4) mRNA量減少と褐色脂肪組織と肝臓脱共役タンパク質2(UCP2)mRNA量増加に起因すると思われた(Fig.3)。
  • 食餌大豆タンパク質は全卵タンパク質と比べ体重増加を抑制した。全卵タンパク質は大豆タンパク質やカゼインと比較し、肝臓の中性脂肪とコレステロール濃度を上昇させた。大豆タンパク質は、他のタンパク質と比較し、肝臓ミトコンドリアβ酸化酵素活性を増加させたが、ペルオキシソームβ酸化と脂肪酸合成系酵素活性を低下させた。白色・褐色脂肪組織のGlut4 mRNA量は全卵タンパク質群で最も低値を示した。UCP2 mRNA量は褐色脂肪組織ではカゼイン群で最も低く、骨格筋では全卵タンパク質で高値を示した(Fig.4)。

成果の活用面・留意点

脂肪酸やタンパク質の種類が生体のエネルギー代謝組織の脂肪酸・糖質代謝を遺伝子発現レベルで変化させることが示され、摂取する食品の選択によりエネルギー代謝に関連する生活習慣病の予防が可能であることが明らかとなった。このような知見は肥満などの予防に有効な食品の開発や食生活指針の構築に資する。

具体的データ

図

その他

  • 研究課題名:食品成分による脂肪組織の遺伝子発現制御
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:1999~2001年度 (2001年度)
  • 研究担当者:高橋陽子・井手 隆
  • 発表論文等:1) Yoko Takahashi and Takashi Ide: Dietary fat-dependent changes of gene expression in rat adipose tissue. JARQ-Japan Agr. Res. Quart. 35, 31-38 (2001)
                      2) Yoko Takahashi and Takashi Ide: A sensitive nonradioisotopic method for detecting polymerase chain reaction products and its application to the quanification of mRNA levels in brown adipose tissue. Anal. Biochem. 293, 152-155 (2001)