枯草菌の形質転換能を制御する因子の解析

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要約

枯草菌のコンピテンス能(形質転換能)を制御する因子の解明を試みた。コンピテンス能の著しく低下した変異株(relA変異株)の解析から、細胞内GTP濃度がその活性を制御していることが明らかとなった。

  • 担当:食品総合研究所・生物機能開発部・微生物機能研究室
  • 代表連絡先:微生物機能研究室 0298-38-8124
  • キーワード:枯草菌、コンピテンス能、細胞内GTP濃度
  • 分類:参考

背景

枯草菌(Bacillus subtilis)はBacillus属に属するグラム陽性細菌であり、基礎生物学の分野でモデル生物として汎用されている。この枯草菌は高いコンピテンス能(外来DNAを取り込む能力=形質転換能)を有しており、本菌における遺伝子操作を容易にしている。本研究では枯草菌のコンピテンス能を制御する因子を解明することを目的としている。

成果の内容・特徴

  • アスパラギン酸要求性relA変異株において著しいコンピテンス能の低下を観察した(図1)。この株ではコンピテンス能の誘発に必要な遺伝子comG(DNAの取り込み装置をコード)の発現が顕著に低下していた。
  • relA遺伝子産物であるRelAタンパク質はアミノ酸の枯渇に呼応して、高リン酸化ヌクレオチドであるppGpp(グアノシン-5'-二リン酸-3'-二リン酸)を合成する。このppGppは細胞内GTP濃度の低下を引き起こすことが知られている。上記relA変異株の細胞内GTP濃度を測定したところ、野生株よりも高い値を示した(図2)。したがって、細胞内GTP濃度の十分な低下がコンピテンス能の誘発に必要である。
  • 培地中にGTP合成阻害剤であるデコイニンを添加し、細胞内GTP濃度を低下させるとrelA変異株も野生株と同等のコンピテンス能を示した(図2、3)。

成果の活用面・留意点

枯草菌のコンピテンス能の誘発に関与する因子の一つについて明らかにすることが出来た。枯草菌は納豆菌と近縁種であることが知られている。したがって、本研究で得られた成果は納豆菌の遺伝子工学的育種への応用が期待される。しかしながら本現象には幾重にもおよぶ制御系が関与していると予想され、今後の詳細な解析が必要である。

具体的データ

図1 野生株およびrelA変異株の形質転換能

その他

  • 研究課題名:微生物の分化誘発機構の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:1998~2002年度 (2001年度)
  • 研究担当者:稲岡隆史・岡本晋・越智幸三