天然抗菌物質による「ういろう」の微生物制御

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要約

ういろうにグリシンを添加することで、品質に影響を与えることなく食中毒原因微生物であるセレウス菌、あるいは離水の原因となる枯草菌の増殖を効果的に抑制することができる。

  • キーワード:和菓子、食中毒、離水、微生物制御
  • 担当:食総研・食品安全研究領域・食品衛生ユニット
  • 連絡先:電話029-838-8067
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

生和菓子の原料である米粉あるいは餡にはセレウス菌が含まれていることがあり、また作業者の手指から黄色ブドウ球菌の汚染を受けることもある。原料あるいは作業環境に由来する枯草菌は、羊羹あるいはういろう類の離水を引き起こす。そこで「阿波ういろう」中における食中毒原因細菌あるいは品質劣化細菌の挙動を明らかにする。また天然抗菌物質による効果的な微生物制御法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 市販阿波ういろう29品目の水分活性は0.900-0.949、糖度は48.0-64.0%であり、食中毒原因微生物が容易に増殖可能な範囲に入っていた。
  • 枯草菌胞子は100℃、70分蒸製後も生存した。残存胞子は30℃、4日間の保存で離水を引き起こすに足りる生菌数(6logCFU/g以上)まで増殖した(図1)が、5.0mg/gのグリシン添加により完全に増殖が抑制された(図2)。
  • セレウス菌胞子は蒸製により死滅した。蒸製後に接種したセレウス菌は、枯草菌よりも最終到達菌数が低かったが、30℃3日保存後に5logCFU/g台に達したものもあった。しかし5.0mg/gのグリシン添加により、セレウス菌の増殖は完全に抑制された(図3)。
  • 黄色ブドウ球菌は蒸製により死滅した。蒸製後に接種した同菌は1日後に6logCFU/g近くまで増殖した(図3)。実用濃度におけるグリシン、ホップエキスおよび鮭精子由来蛋白質の添加効果は見られなかった。
  • 官能検査の結果、5.0mg/gグリシン添加区は対照区と比較して、色調、味およびテクスチャーに有意な差は検出されなかった。

成果の活用面・留意点

  • 「阿波ういろう」は米粉と砂糖に生餡を練り込んで蒸製して製造される。このような生菓子の場合、セレウス菌および黄色ブドウ球菌は蒸製によって、ほぼ完全に殺菌できることが示された。ただし、食品から分離されたセレウス菌の一部が高度な熱耐性を示すという報告があるので注意を要する。
  • 枯草菌胞子は蒸製によって殺菌されず、製造後の保温により離水を引き起こした。5.0mg/gのグリシンを添加することで、品質に影響を与えることなく、枯草菌およびセレウス菌の問題は解決できる。
  • 蒸製後の阿波ういろう上では黄色ブドウ球菌が旺盛に生育した。ういろうに関しても、ナイシンの使用によってこの菌の増殖は抑制可能であるとする報告もある。しかしこの物質の使用は日本では禁止されているため、黄色ブドウ球菌については、製造過程における一般衛生管理で対処することが求められる。

具体的データ

図1 未接種阿波ういろうにおける残存枯草菌胞子の増殖と離水率

図2 加熱前に接種した枯草菌の増殖

図3 加熱後に接種した黄色ブドウ球菌およびセレウス菌の増殖

その他

  • 研究課題名:危害要因の簡易・迅速・高感度検出技術の開発
  • 課題ID:321-a
  • 予算区分:所内交付金プロ
  • 研究期間:2006年度
  • 研究担当者:岡久修己、稲津康弘、川本伸一
  • 発表論文等:Okahisa et al.(2007) J. Food Prot. (投稿中)