日本酒の原料米品種を判別する技術の開発

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要約

消費者の信頼を確保するために、日本酒の原料米品種の判別技術の開発が必要である。PCR法を用いて原料米の品種を判別するため、日本酒からの鋳型DNAの調製方法の改良および判別に好適なPCR用プライマーの開発を行い、日本酒を試料とする原料米の品種判別を可能とする。

  • キーワード:米、日本酒、PCR法、品種判別、DNA
  • 担当:食総研・食品素材科学研究領域・穀類利用ユニット
  • 連絡先:029-838-8045
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

日本酒では、原料米の品種名が表示されている場合があり、消費者の表示に対する信頼を確保するために、原料米品種の判別技術の開発が必要である。品種識別には、植物や穀粒の形態に基づく方法や、酵素多型による方法が知られているが、これらの方法は、日本酒の原料米判別には不適当である。また、日本酒では、PCR法によって原料米の品種判別を行うに際し、(1) 発酵中の微生物酵素による米DNAの分解、(2) 麹菌および酵母のDNAの共存、(3) PCRを阻害する成分の混在、という問題がある。本研究では、日本酒に残存する極微量のDNAの相違に基づく、PCR法による原料米品種判別技術の開発を行う。特に、日本酒からのDNAの抽出精製方法の開発、PCR用プライマーの選定および開発、市販品による方法の有用性の実証に力点を置いて研究を行う。

成果の内容・特徴

  • 日本酒から、PCR用の鋳型DNAを抽出・精製する方法として、耐熱性α-アミラーゼおよびプロテアーゼKを用いる「酵素法」および糖質を効率的に除去できる「CTAB法」を併用することにより、日本酒に残存する極微量のDNAを抽出することが可能である(図1)。
  • 日本酒に混在するポリフェノール等のPCR阻害物質と鋳型DNAを分離するために、70%エタノールによる精製法を加えることでPCRが可能になる(図1)。
  • 日本酒に共存する麹菌や酵母等の発酵微生物由来のDNAを増幅させずに、原料米DNAのみを増幅させるために、植物由来のプライマーを選定あるいは開発した。その一例を図2に示す(図2)。
  • 市販の「コシヒカリ100%」と表示している日本酒から図1に示す方法でDNAを抽出精製し、当研究ユニットで開発した3種類の「コシヒカリ判別用プライマー」を用いてPCRを行った結果、プライマーG22による増幅DNAが出現しないことから、この酒の原料米はコシヒカリではないことが明らかとなった(図3C)。
  • 酒米あるいは市販日本酒を試料とし、3種類のプライマーを用いたPCR法によって原料米の判別を行った結果、4種類の酒米の相互識別が可能であり、「山田錦100%」と表示した市販日本酒Cは、プライマーNG4で増幅DNAが出現することから、偽装表示であることが明らかになった(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本技術は市販の日本酒の原料米表示の真偽を判定する技術として活用できる。
  • 本技術は、ビールやワイン等の醸造酒の原料植物判別の基本技術としても発展が期待できる。
  • 原料米が混米されている場合には判別が困難となる。
  • 今後、他機関との共同試験により、方法の妥当性の確認を行う必要がある。

具体的データ

図1 醸造酒からのDNAの抽出・生成方法図2 植物特有のプライマーによるPCRの例

図3 日本酒の原料表示の[コシヒカリ100%]が偽装であることが判明した例図4 各種の酒米及び市販日本酒を試料としてPCRによる原料米の判別を行った例

その他

  • 研究課題名:流通・消費段階における情報活用技術及び品質保証技術の開発
  • 課題ID:324-b
  • 予算区分:農水省委託・食品安信プロ
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:大坪研一、中村澄子、鈴木啓太郎、原口和朋
  • 発表論文等:特許出願 2006-169336、2006年6月19日