新しい性質のDFA IIIオリゴ糖合成酵素

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要約

あらたに、DFA III (Difructose dianhydride III) オリゴ糖合成酵素を生産する菌株D13-3株を取得した。分類学的検討の結果、本菌株はArthrobacter ureafaciens D13-3と分類同定された。本酵素がイヌリンに作用すると、主生成物DFA IIIの他副生成物としてGF2(1-ケストース)、 GF3(ニストース)が生成した。他のDFA III合成酵素の場合には副生成物はGF3, GF4(フルクトシルニストース)であるので本酵素の副生成物は特徴的と言える。

  • キーワード:オリゴ糖、DFA III、イヌリン、Arthrobacter、チコリ
  • 担当:食総研・微生物利用研究領域・上席研究員
  • 連絡先:電話029-838-8045
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

北海道では甜菜から砂糖が年間70万トンほど生産され、市場規模1000億円オーダーの重要な産業となっている。しかし、消費者の砂糖離れなどの原因で消費が減少し、甜菜の転作作物の導入が必要になっている。ドイツ、ベルギーなどの欧州諸国では甜菜の転作作物としてチコリが実際に導入されている。チコリの根には多糖類の一種であるイヌリンが含まれ、このイヌリンの有効利用の目的でオリゴ糖DFA IIIを生産する微生物酵素について研究を行った。DFA IIIにはカルシウム、鉄などのミネラルの吸収を促進する機能があることが知られている。DFA III合成酵素については、新規なタイプの酵素の開発が求められている。

成果の内容・特徴

  • イヌリンからオリゴ糖DFA IIIを生成する酵素の生産菌を新たに分離した。本菌株(D13-3株)はグラム陽性の好気性細菌でカタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性であった。また培養の過程で菌の形態が桿菌から球菌に変化する多型性を示した。D13-3株からゲノムDNAを抽出し16S rDNAに対応する部分をPCRによって増幅した。増幅した断片の塩基配列を決定し16S rDNAのデーターベースと比較し、分子系統樹解析を行った。その結果D13-3株の16S rDNAはArthrobacter ureafaciens のそれと99.8%のホモロジーを示した。分子系統樹解析では図1に示すようにD13-3株はArthrobacter ureafaciens と同一のクラスターを形成した。これらの実験結果から本菌株をArthrobacter ureafaciens D13-3と分類同定した。
  • 本菌株が培養上清中に生産するDFAIII合成酵素をイオン交換クロマト、疎水クロマトにより電気泳動的に均一に精製した。精製酵素の反応至適pHは5.5,反応至適温度は50℃であった。30分間の加熱を行った場合の耐熱性について検討すると本酵素は70℃まで安定であった。SDS-電気泳動によって分子量の推定を行うと40kDaという値が得られた。
  • 本酵素がイヌリンに作用したときの反応生成物について検討すると主生成物であるDFA IIIの他に副生成物としてGF2(1-ケストース)とGF3(ニストース)が生成していた。他のDFA III合成酵素では副生成物はほとんどGF3(ニストース), GF4(フルクトシルニストース)である。今回のような副生成物を作るDFAIII合成酵素はD13-3株が初めてといえる。これは本酵素の基質認識部位が他の酵素と異なることを示している。本酵素の主な性質を表1に示す。

成果の活用面・留意点

  • 今回得られたオリゴ糖合成酵素の遺伝子のクローニングと塩基配列の解明によって、従来型の酵素との性質の違いを解明することが可能と考えられる。
  • DFAIII合成酵素についてはバイオリアクターはまだ実用化されていない。D13-3株の酵素を固定化したバイオリアクターの開発を行うことが工業的に有用と考えられる。

具体的データ

図1 16S rDNAの分子系統樹解析

表1 A. ureafaciens D13-3のDFA III合成酵素の主な性質

その他

  • 研究課題名:バイオテクノロジーを利用した新食品素材の生産技術の開発及び生物機能の解明・利用
  • 課題ID:313-e
  • 予算区分:交付金プロ
  • 研究期間:研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:原口和朋、吉田充、大坪研一
  • 発表論文等:K.Haraguchi et al.(2006) Carbohydr. Polym. 66: 75-80