固形状食品を大きく変形させた時の物性がヒトの咀嚼(そしゃく)挙動を変化させる

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

食品の物性値とヒトの計測により得た咀嚼パラメータとの関係を体系化した。破壊特性に関わらず、極めて大きく圧縮変形させた時の力学特性が咀嚼初期の、付着性が咀嚼中期から後期の咀嚼挙動に最も影響することがわかった。

  • キーワード:固形状食品、物性値、咀嚼測定、力学測定、咀嚼パラメータ
  • 担当:食総研・食品機能研究領域・食品物性ユニット
  • 連絡先:電話029-838-8031
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

機器測定によって得られる食品の物性値と、ヒトの計測により得られる咀嚼パラメータとの関係の体系化をめざす。まず、汎用的に行 われている物性測定から独立した代表的物性値を抽出する。咀嚼計測では、やはり汎用的に行われている閉口筋の筋電位及び切歯点における下顎運動を測定す る。両者の相関関係を調べ、咀嚼挙動に影響する物性値を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 広い物性範囲から8種の固形状食品(乾パン、こんにゃく、ドライソーセージ、ソフトキャンデー、生大根、たくあん、茹で人参、生人参)を選び、一口大の15×15×10mmに成形した。
  • 平板圧縮試験やテクスチャー解析などにより、できるだけ多数の物性パラメータを得た。これらから有意に相関しない9群(①小 さく圧縮変形したときの物性、②中くらい圧縮変形したときの物性、③大きく圧縮変形したときの物性、④極めて大きく圧縮したときの物性、⑤破壊に要する 力、⑥ばらつきにくさ、⑦付着しやすさ、⑧密度、⑨水分量)が得られた。
  • 8食品の9群を代表する物性値はどれも類似せず(表1)、この8食品は広範囲の食品を代表するモデルとして適当であった。
  • 若年被験者11名に図1のような装具をつけて、閉口時に働く咬筋と側頭筋の筋電位及び切歯点における下顎運動を測定した(図2)。嚥下までの全咀嚼過程に関するパラメータに加えて、咀嚼中にテクスチャーが変化することを考慮して咀嚼初・中・後期における咀嚼パラメータも、できるだけ多数取得した。
  • 表1に示す物性値の中で、90%圧縮歪時の応力が初期の、付着性が咀嚼中・後期の咀嚼挙動に最も影響した。
  • 機器測定における破壊変形と対応する咀嚼パラメータは測定した約100個の中にはなかった。また、機器測定での破壊時の力と有意に相関す る咀嚼パラメータも咀嚼1回目の咀嚼周期のみであった。圧縮歪が50%以下における食品の物性値は、どの咀嚼パラメータとも有意な相関関係が認められな かった。

成果の活用面・留意点

  • 独立性の高い食品を選定し物性値により特徴づけたので、似た物性値を示す異なる食品を用いても、同等の結果が得られることが予測される。
  • 通常の機器による食品物性の評価では、破壊特性や弾性率等の破壊前の物性を得ることが多い。本結果から、このような一般的な物性測定では、咀嚼挙動と対応するパラメータは得にくいことが示唆された。

具体的データ

表1.選定した8食品の独立した9物性パラメータ値

 

図1.咀嚼測定のためのセッティング

 

図2.筋電位(左)と下顎運動(右)の測定例

 

その他

  • 研究課題名:高性能機器及び生体情報等を活用した食品評価技術の開発
  • 課題ID:313-f
  • 予算区分:農水省委託(安信プロ)
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:神山かおる、早川文代
  • 発表論文等:神山、早川(2007)日本咀嚼学会雑誌、17(1):35-44