無機元素組成による黒大豆「丹波黒」の原産国判別
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要約
日本産と中国産の黒大豆「丹波黒」100粒中の24元素を測定し、そこから選択した5元素で構築した判別モデルは、未知試料の的
中率が96%であり、「黒大豆(丹波黒)の原産国判別マニュアル」として公開した。また、一粒判別法として、選択した3元素とKの濃度比による判別モデル
を構築した。その未知試料の的中率は91%であった。
- キーワード:産地判別、無機元素、丹波黒、マニュアル、一粒
- 担当:食総研・食品分析研究領域・分析ユニット
- 連絡先:電話029-838-8059
- 区分:食品試験研究
- 分類:行政・普及
背景・ねらい
食品の表示、特に原産国表示に対する一般消費者の関心は非常に高い。2000年からJAS法により生鮮食品の産地表示が義務づけ
られているが、輸入品を高価な日本産とする偽装表示が後を絶たない。丹波・篠山地方(兵庫県と京都府)の地域特産品である黒大豆品種「丹波黒」も、中国で
栽培されたものが日本へ輸入されている。また、中国産と日本産の「丹波黒」大豆粒を混合し、日本産と表示する産地偽装も懸念される。そこで、長ネギなどで
実用化され、迅速に結果が得られる、無機元素組成を基に統計解析で産地を判別する技術を活用し、①丹波黒大豆100粒による日本産と中国産の判別、②日本
産と中国産の混合による産地偽装表示を鑑定するための一粒での判別技術を確立する。
成果の内容・特徴
- 国産、中国産計66点の黒大豆「丹波黒」約100粒を酸分解し、ppm~pptレベルの元素分析が可能なICP-AES(誘
導結合プラズマ発光分析装置)及びICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)により24元素を測定した。得られたデータ(66点×24元素濃度)を基
に、後進ステップワイズ法により選択した5元素(Al, Ba, Ca, K,
Ni)により、全66点の国産、中国産を分類する線形判別モデルIを構築した(表1、図1)。そのモデルによる新たな未知試料の的中率は96%であった(表2)。
- 一粒判定を目的として、100粒による測定データを基に、各元素とKとの濃度比を使い、後進ステップワイズ法により選択した
6元素(Ba, Ca, Mn, Nd, W, Ni
/K)により、線形判別モデルII、またICP-MS測定元素(15元素)から選択した3元素(Cd, Cs, V
/K)により、線形判別モデルIIIを構築した。(表1、図2)。
- 判別モデル構築用試料と新たな収集試料計97点から一粒ずつ取り、検証用試料とした。それらを測定した結果、判別モデルIIに
よる的中率は、判別モデル構築用試料から取った検証用試料では高かったが新たな未知試料では低かった。判別的中率の低下には粒間の元素濃度の変動が大きく
影響することが判明したので、変動が小さい微量元素から判別元素を選抜し、判別モデルIIIを構築した。このモデルによる検証の結果、新たな未知試料では
91%と、モデルIIより的中率が大きく向上した(表2)。
成果の活用面・留意点
- 100粒による判別モデルIは、農林水産消費安全技術センターの検査業務で使用するマニュアルとなり、同センターのweb siteで公開されている。
- 一粒判別モデルでの判別により、市販の黒大豆「丹波黒」の産地偽装表示だけでなく、中国産と日本産の黒大豆「丹波黒」を混合し日本産と表示する偽装も監視できる。
- 地域振興のため、種々の地域特産農産物が注目されているが、競合する輸入品との差別化を図れる偽装表示防止技術として、農産物の科学的な産地鑑定法が無機元素組成に基づくことで比較的容易に開発できる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:流通・消費段階における情報活用技術及び品質保証技術の開発
- 課題ID:324-b
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2004~2005年度
- 研究担当者:法邑雄司、鈴木忠直、小阪英樹、堀田博、安井明美
- 発表論文等:
1)法邑ら(2006) 食科工、53(12):619-626
2)法邑ら(2005) 日作紀、74(1):36-40
3)法邑(2007) 日本醸造協会誌、102(10):737-742