カンピロバクター食中毒菌の迅速種同定法の開発

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要約

カンピロバクター属菌の特定遺伝子の多型を利用して遺伝子検査による簡易迅速な種同定法を開発した。従来、本菌の種同定には熟練の技術と時間を要したが、本法により簡易迅速化が期待できる。

  • キーワード:カンピロバクター、食中毒菌、PCR-RFLP
  • 担当:食総研・食品安全研究領域・食品衛生ユニット
  • 連絡先:Tel; 029-838-8067
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

カンピロバクター属菌は胃腸炎の原因として世界中で頻発しており、ギランバレー症候群など重篤な後遺症を引き起こす難病との関連 性も指摘されている。日本においても、細菌性食中毒の中では発生件数・患者数共にここ最近1位となっている。しかし、カンピロバクター食中毒として代表さ れるCampylobacter jejuni/coli 以外の種における環境分布や感染発生頻度の正確な情報は把握できないのが現状である。本菌の疫学調査が必要とされるが、本菌検出には微好気(酸素濃度 数%)環境という特別な培養条件が必要であり、熟練の技術を要する。このため、高精度かつ疫学調査へ応用が可能な簡易種同定手法が望まれていた。
本研究では、米国農務省東部研究所との共同により多数の菌株を収集し、各々の特定遺伝子配列を決定し系統樹を作成した。この遺伝子配列を解析したとこ ろ、ある制限酵素にて部分配列を処理することで種を同定できることを見いだした。本法により、本菌の同定に必要な労力と時間を大幅に削減でき、疫学調査へ の応用が期待できる。

成果の内容・特徴

  • カンピロバクター属のgyrB 遺伝子多型を調べるため、PCR増幅かつ塩基配列決定のためのプライマーを作成した。
  • 米国農務省東部研究所との共同により多数の菌株を収集し、各々の株のgyrB 遺伝子配列を決定し進化系統樹を作成した(図1)。その結果、近縁種に代表されるヘリコバクターなどと大きくクラスターが分かれ、かつ、カンピロバクター属の種間も16S-rDNA塩基配列解析による系統樹に比べより明瞭に分離できた。
  • 2.の塩基配列解析情報を基にカンピロバクター属のgyrB 遺伝子を共通に増幅できるPCRプライマー群を新たに作成した。
  • PCR増幅産物の塩基配列解析により、2種の特定の制限酵素を用いた消化で、カンピロバクター属の12種を区別・同定できると推定した。
  • 実際に、増幅産物の制限酵素消化実験で予想通りの切断片パターンが得られ(図2)、PCR-RFLPによるカンピロバクター属の迅速種同定法に活用できることを確認した。

成果の活用面・留意点

  • 従来の本菌の種同定には、多数の性状試験を微好気環境下で必要とし多大の労力と時間を要していたが、本開発手法により迅速化・簡略化を図ることが出来る。
  • 今回決定した塩基配列の種々間相同性は最も高いところで90%以下であった。このことから、PCR-RFLP以外への検査法へ応用が期待できる。
  • カンピロバクターについては主要な食中毒菌であるC. jejuni、C. coli についての疫学情報等は多いが、その他の菌種についてはまだ詳細な情報が把握できていない。本法は、これらの情報収集の簡易化・加速化に利用できる。

具体的データ

図1. 特定遺伝子(gyrB)配列(内、約1kb)から作成したカンピロバクター属菌の進化系統樹(CLUSTAL Wの解析による).

 

図2. 特定の制限酵素を用いると種ごとのフラグメントパターンが異なることを発見、迅速同定が可能.

 

その他

  • 研究課題名:危害要因の簡易・迅速・高感度検出技術の開発
  • 課題ID:321-a
  • 予算区分:交付金(一般研究費)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:川崎晋、川本伸一