高圧処理における新規殺菌予測モデルの開発

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要約

従来の曲線回帰とは異なる手法によって、高圧処理による殺菌効果を予測する速度論的な数学モデルを開発した。本モデルは従来の曲線回帰手法では予測不可能な変動する圧力条件下においても,高い精度で殺菌効果を予測可能ある。

  • キーワード:予測微生物学,速度論的解析
  • 担当:食総研・食品工学研究領域・食品高圧技術ユニット
  • 連絡先:電話029-838-7152
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

食品加工において殺菌処理は必要不可欠な単位操作の一つであり,その効果を予測・推定する試みは古くから行われている。加熱処理 においては片対数グラフ上で微生物数が直線的に減少する関係性から,D値(最初の菌数を1/10にする時間)あるいはZ値(D値を1/10にする温度差 (℃))などの概念が実用的に用いられてきている。しかし,温和な加熱処理や高圧処理の場合には,微生物の死滅は直線的ではなく,テーリング現象に代表さ れる非線型な振舞いをすることが多い。このような非線型な挙動を記述するために,各種の数理モデルが提案され,実験データへの曲線回帰がなされてきたが, 殺菌効果を予測可能とする数理予測モデルはなかった。本研究では実験結果への曲線回帰だけではなく,種々の条件下での殺菌効果を予測可能とし,実用に供す ることができる新たな予測モデルの開発を目的とする。

成果の内容・特徴

  • 新規殺菌予測モデルの開発
    高圧処理による微生物死滅曲線を記述するための,速度論的な殺菌予測モデルを図1に示すように概念化して,式(1)と(2)を考案した。すなわち,処理開始直後には急速に殺菌効果を示すが,時間経過に伴い殺菌効果(速度)が低下する現象を記述するモデルである。
  • 高圧処理における殺菌速度の圧力依存性のモデル化高圧処理における大腸菌の死滅速度と処理圧力との関係が,式(2)で記述されるような関係性を示すことが明らかとなった。すなわち,最大死滅速度の処理圧力依存性が数式化できた(図2)
  • 従来手法との比較
    従来から提案されてきた種々の非線型モデルとの予測精度の比較を行った結果,新たに開発したモデルは一定圧力条件下における大腸菌の死滅挙動を,従来モデルによる曲線回帰手法と同等の精度で予測することができた(図3)。
  • 変動圧力条件下における殺菌効果の予測 新たに開発したモデルは,変動する圧力条件下における大腸菌の死滅挙動を高い精度で予測することが可能であった(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 対象とする細菌の種類によって,最大死滅速度の関数が異なることから,目的とする細菌毎に,最大死滅速度の温度依存性を見出す必要がある。
  • 高圧処理だけでなく,加熱処理(特に温和な条件)においても,開発したモデルは適合可能である。すなわち,最大死滅速度の温度依存性をモデル化することで,同様に予測解析が可能になると考えられる。

具体的データ

図1 高圧処理による細菌死滅モデルの概念図 図2 最大死滅速度の圧力依存性:最大死滅速度の平方根と処理圧力との関係

 

図3 各種予測モデルによる大腸菌の死滅挙動予測精度の比較 図4 変動圧力条件下における大腸菌の死滅挙動予測結果

 

その他

  • 研究課題名:予測モデルを活用した超高圧殺菌最適化手法の開発
  • 課題ID:323-e
  • 予算区分:技会委託 食品安信プロ
  • 研究期間:2006-2010年度
  • 研究担当者:小関成樹、山本和貴
  • 発表論文等:Koseki S.and Yamamoto K.(2007)Int.J Food Microbiol.116(3):275-282