高でん粉蓄積稲わらの糖化技術

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要約

茎葉部にでん粉を蓄積した出穂期または成熟期の稲わら(葉鞘および稈)を原料として、100℃での加熱処理後に酵素糖化を行うこ とにより、迅速にグルコースやフラクトースを得られる。これらの糖の最大収率は、原料の対乾燥重量比で40%以上に達する。これらの糖は、通常のエタノー ル酵母が発酵できることから、現行技術によるバイオエタノール製造が可能となる。

  • キーワード:稲わら、高でん粉蓄積、酵素、糖化
  • 担当:食総研・糖質素材ユニット(作物研・稲収量性研究チームとの共同)
  • 連絡先:電話029-838-7189
  • 区分:バイオマス・変換技術
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

稲わら茎葉には、出穂期または成熟期を中心に、シュークロース、でん粉などの糖質が蓄積されることが知られている。品種系統や栽 培法などによっては、乾燥重量の20%を越える量のでん粉を茎葉に蓄積するが、このような高でん粉蓄積稲わらの糖化特性評価は行われてこなかった。本研究 では、高でん粉蓄積稲わらの変換効率評価を行い、高度な前処理を行わず酵素糖化が可能であり、利用性の高いグルコースやフラクトースを数時間で生産できる 技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 成熟期および出穂期の稲わら(葉鞘および稈)を70℃で乾燥後、高速振動粉砕機で処理した粉末を原料とする。この原料の水懸 濁液(10%(w/v))を100℃で10分間加熱した後に50℃まで冷まし、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、β-グルコシダーゼおよびアミログルコシダー ゼを含む緩衝液(pH5.0)を加えて、50℃で酵素糖化反応を行い、酵素糖化率を計算する。
  • 出穂期のハバタキ(でん粉率23.0%)および成熟期のリーフスター(でん粉率15.4%)由来の稲わら粉末を用いて、最終 基質濃度を2.5%として上記と同様の反応を行う。この処理で、それぞれ乾燥重量比で40%および28%のグルコースが生産される。前者原料中の遊離フラ クトース等も計算すると、乾燥重量比で43%を越える単糖を得る。これに対して、成熟期コシヒカリ(でん粉率2.4%)では、乾燥重量比で13%のグル コース生産となる(図1)。
  • 稲わら粉末を酵母培養用培地中、100℃で10分間加熱処理した後に、前記酵素と酵母(Saccharomyces cerevisiae)培養液を加えて30℃で15時間の並行複発酵を行う。原料の酵素糖化により得られる糖質から計算した理論収量の約7割のエタノールが生成できる。

成果の活用面・留意点

  • 本技術によれば、強酸・アルカリなどの高度な前処理を行わない効率的な単糖生産が可能となる(図2)。グルコースとフラクトースは酵母発酵性の糖質であり、現行のエタノール発酵工程をそのまま適用できることから、高でん粉蓄積稲わら原料の供給体制が整えば、直ちに実証段階に移行可能となる。
  • でん粉の含有率は同品種系統でも栽培条件により変動する。高でん粉蓄積稲わら原料を安定的に確保するためには、育種研究や栽 培研究の推進が鍵となる。成熟期の葉鞘および稈にでん粉を高蓄積する食用稲が得られれば、コメの回収と稲わらの酵素糖化が両立し、稲から食料と競合しない バイオエタノール製造が可能となる。

具体的データ

図1 各稲わら試料のでん粉率、グルカン率と酵素糖化率(乾重比)

図2 稲わら粉末を原料とした糖化技術によるグルコース・フラクトース生産

その他

  • 研究課題名:リグノセルロースの酵素分解技術の開発
  • 課題ID:224-b
  • 予算区分:農林水産省委託プロ「地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発」
  • 研究期間:平成19年度~平成23年度(予定)
  • 研究担当者:徳安健(食総研)、近藤始彦、三王(荒井)裕見子(作物研)