低濃度ストレプトマイシン耐性変異による微生物の有用物質生産能力増強

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要約

新規な低濃度ストレプトマイシン耐性変異であるrsmG変異は、バクテリアにおける有用物質(生理活性物質、酵素等)生産を活性化する。また、低濃度および高濃度ストレプトマイシン耐性を順次導入することにより、微生物育種を簡便に行うことが出来る。

  • キーワード:微生物生産、バクテリア、薬剤耐性変異、微生物育種
  • 担当:食総研・食品バイオテクノロジー研究領域・生物機能解析ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8124
  • 区分:食品
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

発酵産業に資する有用微生物の育種は、遺伝子工学技術の利用を除いて、従来、ランダムな変異導入を基本とした手法により行われてきたが、変異部位の特定および変異株の性状検討に膨大な手間と時間を要するという問題があった。 既に我々は、バクテリアに対してリボゾームを標的とした抗生物質ストレプトマイシンに対する耐性を付与することにより、リボゾームタンパク質S12に変異を導入、それにより蛋白質合成能を高めて生理活性物質、酵素等の有用物質の生産性向上を達成出来ることを報告している(文献1)。本研究では、S12変異株より低濃度のストレプトマイシンに対してのみ耐性を示す新規のストレプトマイシン耐性変異変異株が存在し、これらの株も有用物質生産能の向上が見られることを発見した。この低濃度ストレプトマイシン耐性変異の原因を探ると共に、本変異及びS12変異を利用した簡便で効率的な微生物育種法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 放線菌のアクチノロージン(青色色素)生産性を指標としたスクリーニング系によりみいだした新規な低濃度ストレプトマイシン耐性変異は、バクテリアの有用物質生産能を著しく活性化する(図1)。
  • 低濃度ストレプトマイシン耐性変異の染色体上の変異部位を、最新のゲノム解析法であるCGS(comparative genome sequencing)法により探索すると、rsmG遺伝子内に変異が見いだされ、この遺伝子は真正細菌16SリボゾームRNAにおいて共通に見られる7-メチルグアノシン(m7G)修飾に関わるメチル化酵素をコードしている(図2)。
  • rsmG変異によるストレプトマイシン耐性獲得メカニズムとしては、16SリボゾームRNAのm7G修飾の消失によるリボゾームのストレプトマイシンへの親和性の低下が考えられる。
  • rsmG変異株のリボゾームもS12変異株のそれと同様に高い蛋白質合成能を示す。
  • 低濃度ストレプトマイシン耐性変異である「リボゾームRNAメチル化酵素RsmG変異」と高濃度耐性変異である「リボゾームタンパク質S12変異」の逐次的導入により、微生物育種を効率的に実施できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • rsmG変異による有用物質生産の活性化は、放線菌以外のバクテリアにおいても効果が期待できる。
  • rsmG変異の取得はストレプトマイシンの最小生育阻止濃度(MIC)の3~5倍程度、S12変異の取得はMICの10~50倍程度の濃度において耐性株を選抜する。
  • 通常、低濃度ストレプトマイシン耐性株の3~50%がrsmG変異株であることから、本育種法では少なくとも50株程度の耐性株の検討が望ましい。

具体的データ

図1 ストレプトマイシン耐性変異によるアクチノロージン(青色色素)生産性の活性化

図2 RsmGによるメチル化部位

図3 rsmG及びS12変異の導入によるアクチノマイシン生産菌の育種

その他

  • 研究課題名:バイオテクノロジーを利用した新食品素材の生産技術の開発及び生物機能の解明・利用
  • 中課題整理番号:313e
  • 予算区分:基盤、科振調費、科研費
  • 研究期間:2005~2009年度
  • 研究担当者:岡本晋、稲岡隆史、越智幸三
  • 発表論文等:1) Ochi K. et al. (2004) Adv. Appl. Microbiol. 56:155-184 2) Okamoto S. et al. (2007) Mol. Microbiol. 63(4):1096-1106 3) Nishimura K. et al. (2007) J. Bacteriol. 189(10):3876-3883 4) Tanaka Y. et al. (2009) Appl. Environ. Microbiol. 75(14):4919-4922