膜分離工程の最適化のための浸透圧-吸着抵抗モデルを用いた解析

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要約

浸透圧-吸着抵抗モデルを適用することにより、種々の条件下で卵白アルブミンを限外ろ過した際の透過流束を推算することができ、透過流束を規定する要因が、膜面における浸透圧の上昇と溶質吸着による透過抵抗の増大であることが明らかとなった。

  • キーワード:ゲル層、限外ろ過、浸透圧、溶質吸着、卵白アルブミン
  • 担当:食総研・食品工学研究領域・反応分離工学ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7323
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

タンパク質溶液の限外ろ過における分離性能を規定している要因が、ゲル層形成であるのか、あるいは膜面近傍における浸透圧の上昇であるのかという、学界での長年の疑問を解決するため、様々な条件下で卵白アルブミン水溶液の限外ろ過実験を行い、透過流束および溶質阻止率の挙動を解析する。その結果をもって、膜分離工程の最適化に資する。

成果の内容・特徴

  • 未処理の卵白アルブミン溶液と遠心分離処理した卵白アルブミン溶液を限外ろ過した際の透過流束は、いずれの場合も浸透圧-吸着抵抗モデル(膜面での浸透圧の上昇と溶質吸着による透過抵抗の増大とを考慮)により良好に推算できた(図1)。未処理の溶液の場合には、ゲル層が形成されるのに対し、遠心分離した溶液では、ゲル層は形成されなかった。このことから、膜面上に観察されるゲル状の堆積層は、変性した卵白アルブミンの凝集物により形成されるものであることが明らかとなった。また、透過流束を規定してる主たる要因が、膜面上におけるゲル層形成ではなく、膜面近傍での浸透圧の上昇と溶質吸着による透過抵抗の増大であることが明らかになった。
  • 精密濾過膜を用いて同様の実験を実施したところ、ゲル層が観察された未処理の卵白アルブミン溶液においては阻止率は1に近い値を示し、透過流束は浸透圧-吸着抵抗モデルで推算される値にほぼ一致した。一方、ゲル層が観察されなかった遠心分離処理後の溶液では、透過流束は、モデルによる推算値より極めて大きなものになった(図2)。このことから、ゲル層は、卵白アルブミン自身に対する阻止性能を有しているものの、溶媒の透過に対しての抵抗にはならないことが明らかになった。
  • 溶質の膜への吸着の影響を検証する実験では、ろ過することにより卵白アルブミン溶液を限外ろ過膜の細孔内に送り込むことによって、単に膜を浸漬するよりも吸着平衡に到達するまでの時間が短縮されたが、最終的な透水性(純水透過流束:PWF)には、違いが見られなかった(図3)。このことから、膜細孔内での溶質吸着が、膜の透過抵抗に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。

成果の活用面・留意点

  • タンパク質の限外ろ過における膜分離性能(透過流束および溶質阻止率)を規定する要因が明らかとなったことは、効率的な膜分離システムを構築する上での対応方針の策定に有用である。
  • 浸透圧-吸着抵抗モデルは、フィッティング・パラメータ用いることなく透過流束を推算することができるため、その汎用性は高い。
  • 浸透圧-吸着抵抗モデルの活用のため、各種溶液の浸透圧データの蓄積が必要である。

具体的データ

図1 卵白アルブミン溶液を限外ろ過処理した際のろ過圧力△Pと透過流束Jvおよび見かけの阻止率Robsとの関係

図2 卵白アルブミン溶液を精密ろ過処理した際のろ過圧力△Pと透過流束Jvおよび見かけの阻止率Robsとの関係

図3 卵白アルブミン溶液への浸漬処理と卵白アルブミン溶液のろ過処理での限外ろ過膜の透水性(純水透過流束:PWF)の変化

その他

  • 研究課題名:高度微細膜分離システムの構築
  • 中課題整理番号:313d
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2009年度
  • 研究担当者:鍋谷浩志、蘒原昌司
  • 発表論文等:H. Nabetani et al. (2009) Food Sci. Technol. Res., 15(3)225-232.