原子間力顕微鏡用樹脂探針の作製による迅速アレルゲン検出技術の開発

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要約

原子間力顕微鏡を用いた食品中のアレルゲンを検出する技術を開発するためにマイクロ光造形法による樹脂探針を試作することで、多くの分子の計測が可能となる。

  • キーワード:原子間力顕微鏡(AFM)、アレルゲン、マイクロ光造形法、樹脂探針
  • 担当:食総研・食品工学研究領域・ナノバイオ工学ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8054
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AMF)の微弱力検出機能を応用し、食品中のアレルゲンを迅速に検出する技術の開発を進め、アレルゲンタンパク質と抗アレルゲン抗体の微弱な相互作用力を検出することに成功した。今年度は、存在比の少ないアレルゲン分子の検出効率を向上のため、先端面積の大きな樹脂製探針を開発し、その評価を行なった。本技術は、将来的に生産工程におけるアレルゲン検査などへの応用が考えられる。

成果の内容・特徴

  • 通常の市販金被覆AFM探針に抗アレルゲン抗体を結合させ、探針と試料の間に働くピコニュートンの相互作用力を検出することに成功した(図1)。
  • 計測は位置を移動しながら200~300回の相互作用力計測を行い、統計的にアレルゲンの有無を判別するが、これに要する時間は解析まで含めて5~10分程度である。また、抗体固定探針は、使い捨てでなく、繰り返し使用が可能である。
  • モデル系タンパク質(フェリチン)、β-ラクトグロブリン(牛乳主要アレルゲン)、グリアジン(コムギ主要アレルゲン)、オボムコイド(卵白主要アレルゲン)を基板に被覆固定し、非特異的吸着を抑制するための界面活性剤及びプロッキング剤を加えた溶液中で抗アレルゲン抗体を固定した探針と基板の間に働く相互作用力を計測した。その結果、いずれの場合も参照試料(非抗原試料)に比べ、有意に大きい相互作用力を検出できた。
  • 市販の探針の場合、先端径は20 nm程度(タンパク質が数分子入る程度)で、ppmレベルのアレルゲン分子の計測は困難であるため、マイクロ光造形法により先端面積を拡大した樹脂製の探針を試作した。試作探針は市販探針に比べて数十倍の先端径をもつにも関わらず、非特異的吸着力は市販探針並に小さく、アレルゲン検出が可能であることを検証した(図2,3)。今回開発した樹脂製探針の場合、一回の測定で、数100から2000程度の分子に対する計測が可能である。

成果の活用面・留意点

現在、試作中の先端面積の大きな樹脂製探針を使用すれば、市販探針を使用した場合に比べ、より高感度なアレルゲン検知が可能となる。今後、探針形状、制御手法等の検討を行なった上で、食品由来の実試料への展開を想定している。

具体的データ

図1

図2 マイクロ光造形法の原理と作製した探針

図3 樹脂製探針によるアレルゲン検出実験

その他

  • 研究課題名:アレルゲンの新規検出技術の開発
  • 中課題整理番号:313f
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2007年~2009年度
  • 研究担当者:杉山滋、若山純一、小堀俊郎
  • 発表論文等: 1)Wakayama, J., Sekiguchi, H., Akanuma, S., Ohatni, T., Sugiyama, S., Method for reducing nonspecific interaction in antibody-antigen assay via atomic force microscopy. Anal. Chem. 380, 51-58 (2008). 2)若山純一、大谷敏郎、杉山 滋, SPMナノセンサーと食品応用、「バイオセンサーの先端科学技術と応用」(シーエムシー出版), pp.303-311 (2007)