遺伝子シャッフリングと突然変異を組み合わせた新規酵素改変法

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要約

遺伝子シャッフリングとランダム変異導入を組み合わせることにより、大きく構造を改変した活性型キメラ酵素を作出することができる。本手法により、食品加工用酵素アエロモナスアミノペプチダーゼの大幅な耐熱化が達成できた。

  • キーワード:遺伝子工学、熱安定性、食品加工用酵素、アミノペプチダーゼ
  • 担当:食総研・食品バイオテクノロジー研究領域・酵素研究ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8071
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

食品加工用酵素アミノペプチダーゼは、食品中のタンパク質分解、発酵食品の熟成時間の短縮、調味料の製造等に用いられる。食品加工においては雑菌の繁殖防止や加工時間の短縮等のため60°C以上の反応温度が求められるが、一般的に酵素はこの温度では変性し活性を失うことが多い。そこで本研究では、遺伝子工学的手法を用いた新規な酵素改変法により、アミノペプチダーゼの熱安定性の向上を試みる。熱安定性等の酵素特性を改変する方法としては、複数の酵素遺伝子を入れ替える「遺伝子シャッフリング法」および酵素遺伝子の塩基をランダムに変異させる「突然変異法」が知られているが、前者は、酵素の性質を大幅に変化できる可能性があるものの活性型酵素が得られにくく、また、後者は活性型酵素が得られやすいものの特性の大きな変化は期待できないという問題がある。そこで本研究では、両者を組み合わせることによりそれぞれの問題を解決して効率的に酵素を高機能化する手法を開発し、これをアミノペプチダーゼの耐熱化に利用する。

成果の内容・特徴

  • 熱安定性に乏しい(約30°C、図1)食品加工用酵素アエロモナスアミノペプチダーゼを、熱安定性が高い(約65°C、図1)ビブリオアミノペプチダーゼと遺伝子シャッフリングでキメラ化することにより、耐熱性の付与を試みた(図2)。しかしながら、得られたキメラ酵素はインクルージョンボディを形成し、不活性であった。
  • この不活性型キメラ酵素にエラープローンPCR法によりランダム変異を導入して活性型の取得を試みた。ランダム変異キメラ酵素遺伝子で形質転換した大腸菌ライブラリーのコロニーをPVDF膜に転写し、発現タンパク質をPVDF膜に固定後、発色基質であるロイシンパラニトロアニリド(Leu-pNA)を塗布したろ紙を接触させて、活性化酵素を発色させ、活性型酵素を選択した(図3)。
  • 最終的に得られた変異酵素の熱安定性は約50°Cであり、60°Cでも約75%の活性が残存した(図1)。一方、変異酵素の酵素活性(Km 0.15 mM、kcat 30 s-1)は食品加工用酵素アエロモナスアミノペプチダーゼ(0.14 mM、40 s-1)と同等であり、本酵素改変法で、酵素の活性を損なうことなく、その熱安定性のみ大幅に向上した酵素の作出に成功した。

成果の活用面・留意点

  • 作成した食品加工用酵素アエロモナスアミノペプチダーゼは60°Cで利用できる
  • 本酵素改変法は、熱安定性の向上のみでなく、pH特性の改善、基質特異性の改変等にも応用可能であり(図3)、他の食品加工用酵素の高機能化にも適用できる。

具体的データ

図1 各種酵素の熱安定性

図2 遺伝子シャッフリングによるキメラ酵素の構築

図3 変異アミノペプチダーゼのスクリーニング方法

その他

  • 研究課題名:バイオテクノロジーを利用した新食品素材の生産技術の開発及び生物機能の解明・利用
  • 中課題整理番号:313e
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2008~2009年度
  • 研究担当者:韮澤悟、林清
  • 発表論文等:1) Nirasawa S., Hayashi K. (2008) Biotechnol. Lett. 30:363-368