食中毒菌迅速多重検出システムの実用化と開発培地の優位性検証

要約

  • 食中毒未然防止を目的として、複数の食中毒菌を簡易・迅速に同時検査する手法を開発し、実用化した。本技術で開発した前培養培地のサルモネラ検出に関する妥当性確認試験を行った結果、従来法の培地に比べて検出率が優れている。
  • キーワード:食中毒菌検査、簡易迅速検査法、妥当性確認
  • 担当:食総研・食品安全研究領域・食品衛生ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8067
  • 区分:食品
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

食品製造業者自らが食中毒菌検査を実施したいという要望は強く、簡易・迅速な検査技術開発が望まれている。しかし、実際の食品での活用を想定して、前処理から検出まで全ての工程を含んだ検出法作成と実用性評価までを行った検査技術は少ない。当研究室では食中毒の未然防止や検査コストおよび時間と労力の削減を目的として、一度の工程で複数の食中毒菌(大腸菌O157, サルモネラ, リステリア)を簡易迅速に検出する手法を開発し、2010 年1 月に実用化・市販された。本技術の普及・促進のために、検出率の信頼性を明らかにし、サルモネラ検出率について開発培地の妥当性確認試験を実施する。本技術は食品製造現場での自主検査としての活用と共に、従来法(公定法)に比べ、開発培地による検出率の向上が期待できる。

成果の内容・特徴

  • 主要な3 種の食中毒菌(大腸菌O157, サルモネラ, リステリア)を開発培地で同時前培養した後、培養液から簡易に核酸を粗抽出し、特異的遺伝子の有無をPCR 法で複数同時検出する技術である。その検出感度は、食品25g 中にいずれかの食中毒菌の生菌が1 個存在すれば検出できる。
  • 開発された手法を元に、本技術の試作キットを用いた保存試験をはじめ、60 種類以上での食材適応試験、第3 者機関での検出感度比較試験、凍結保存検体からの回収試験など、多岐に渡る試験から有効性が確認され、2010 年1 月に食中毒菌多重検出キット[TA10](多重)として市販され、普及を図っている(図1)。
  • AOAC ガイドラインに準じた加熱および凍結損傷させたサルモネラの牛挽肉からの回収試験による妥当性確認試験結果(図2)から、本開発培地は米国食品医薬品庁で推奨する前培養培地のLactose broth(LAC)やUniversal Preenrichment broth (UP)と比較して、検出率が有意に高く、本開発培地の優位性が明らかである。

成果の活用面・留意点

  • 従来の培養法では食中毒菌の検出に多大な労力と時間だけでなく熟練の技術と経験を要する。本手法では、単一の培地での培養、簡易遺伝子抽出、PCR 反応という一連の作業で複数の食中毒菌を検出できる。また、本検出法がキットとして供給されることから、実用性評価を伴いながら、遺伝子検査法の製造現場への技術普及に貢献できる。
  • 多くの食品製造現場での簡易・迅速な自主衛生管理手法としての活用や食中毒事故発生の際の原因菌特定のための検査への活用が期待できる。また、本キットは培地、簡易遺伝子抽出、PCR 反応の3つに分かれているが、それぞれ個別での活用や応用も期待できる。特に、培地での検出率妥当性評価試験結果から、開発培地の優位性が認められ、従来法(公定法)に比べ検出率の向上も期待できる。
  • 多数の食材において概ね良好な結果が得られており、本キットの適応範囲は幅広いと考えられるが、実際の活用においては、あらかじめ接種試験などの予備試験を行うことによる検出感度や技術の確認が必要である。

具体的データ

図1. 製品化された 食中毒菌多重検出キット[TA10] (多重)  陽性コントロールが追加され、より実用的に改良された.表1. 加熱および凍結損傷させたサルモネラの牛挽肉中からの検出率比較  開発培地は他の従来法の培地と比較して統計学的有意に高い検出率を示す.

その他

  • 研究課題名:有害微生物の検出及び同定技術の開発と評価(川崎、川本)
  • 中課題整理番号:321-a-00-001-00-J-10-01
  • 予算区分:交付金(一般研究費)・委託プロ(食品総合・生産工程)
  • 研究期間:2003-2010年度
  • 研究担当者:川崎晋、川本伸一
  • 発表論文等:1) 川本ら「微生物の多重検出方法」,特許第4621919号
                       2) Kawasaki, S. et al. (2005) J. Food Prot., 68, 551-556.
                       3) Kawasaki, S. et al. (2009) Foodborne Pathogens and Disease., 6, 81-89.
                       4) Kawasaki, S. et al. (2010) Foodborne Pathogens and Disease., 7, 549-554.