SSRマーカーを用いたコメの高精度品種鑑定法

要約

従来法に比べ精度および信頼性を向上させたコメ品種鑑定法を提供する。鑑定に用いるDNAマーカーは、ヒトのDNA鑑定に用いられるものと同水準である。

  • キーワード:コメ、イネ、品種鑑定、品種識別、SSRマーカー
  • 担当:食総研・食品素材科学研究領域・穀類利用ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8045
  • 区分:食品
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

 JAS法による精米・玄米への品種表示義務のみならず、平成22年より施行された米トレーサビリティ法により、米穀の流通時における品種等の情報管理はより厳密なものとなりつつある。コメにおける品種管理を正確に行うには、DNAによる識別が不可欠であり、従来から様々な手法を用いて技術開発がなされている。現在の技術水準では、SSR(Simple Sequence Repeat、またはマイクロサテライト)マーカーが最も実用性・信頼性が高く、中でも4塩基の反復単位を持つSSRマーカーが検出精度面から有利であり、ヒトにおけるDNA鑑定にも利用されている。そこで、このヒトDNA鑑定にも用いられる4塩基反復SSRを利用して、精度および信頼性を向上したコメ品種鑑定法を開発する。本手法は、農産物では初めて4塩基反復SSRマーカーを実用的に利用した実施例である。

成果の内容・特徴

  • 抽出DNAから4塩基反復SSRを含む領域を増幅し、その増幅長をGenetic Analyzer(シーケンサー)でフラグメント解析することにより、品種間のSSRの反復数の違いを精度よく検出する(図1)。
  • 4塩基反復SSRマーカーとしては染色体上に散在する24種を用い、そこから得られるSSR反復数の多型をパターン化し、基準と比較を行うことで品種を同定する(表1)。
  • 現在までに、主要48品種(うるち、もち及び醸造用を含む生産量上位)については、基準となる多型パターンを取得済みであり、これらの分析が可能である(表2)。
  • 手法で用いる4塩基反復SSRマーカーは、現在農産物で主流に用いられている2塩基反復のものと比較して、スタッターピーク(SSRマーカーにおいて本来の検出ピーク周辺に生じる副産物)が少なく、また、検出機器の測定誤差(±1塩基)の影響を受けにくいため、精度・信頼性が高い(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 多型パターンをデータベース化した主要48品種については、その品種鑑定を高精度に行うことが可能である。
  • コメ(精米・玄米)だけでなく、その加工品である米飯、あるいはイネ組織(葉、茎など)についても、分析可能なDNAが抽出できれば、本手法を用いて品種鑑定を行うことが可能である。
  • 本手法における24マーカーによる分析を用いても、「ヒノヒカリ」と「森のくまさん」、「ほしのゆめ」と「ふっくりんこ」などの同一の多型パターンを示す品種群が存在しており(表2)、それらの相互識別には、他のマーカーを利用する必要がある。
  • 品種ごとの多型パターンは主要48品種以外にも順次データベース化を続けており、最終的に300品種以上を予定している。

具体的データ

図1.日本晴とコシヒカリにおける8マーカーの泳動例(マーカー名はRM__と表記)

表1。図1の結果のパターン化(日本晴の増幅長をAとしてその差を±表記、マーカーの並び順は図1と同一)

表2.基準となる多型パターンを取得済みの品種図2.2塩基反復と4塩基反復のSSRの分析例

 

その他

  • 研究課題名:流通・消費段階における情報活用技術及び品質保証技術の開発
  • 中課題整理番号:324b
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2009?2010年度
  • 研究担当者:岸根雅宏