澱粉原料からのサイクロデキストラン製造技術の開発
要約
ショ糖からの歯垢形成を抑制し、難溶性物質等を環の中に取り込む包接作用を持つ機能性オリゴ糖サイクロデキストランを澱粉原料から1種類の微生物で発酵生産することが可能である。また、2種類の酵素を用いることにより酵素生産も可能である。
- キーワード:サイクロデキストラン、環状イソマルトオリゴ糖グルカノトランスフェラーゼ、デキストラングルカナーゼ
- 担当:食総研・応用微生物研究領域・発酵細菌ユニット
- 代表連絡先:電話029-838-8075
- 区分:食品
- 分類:技術・参考
背景・ねらい
サイクロデキストラン(環状イソマルトオリゴ糖、CIと省略)は、う蝕菌のグルカン合成酵素を強く阻害して歯垢の形成を抑制する機能性オリゴ糖である。また、重合度10以上の高分子のCIには包接作用による物質の可溶化・安定化能も確認されている。CIの生産は、ショ糖を原料として2種類の微生物酵素を用いて合成する方法が実用化されているが、原料ショ糖の半分を占める果糖部分が利用されず除去されるため、製品CIの製造コスト低減が困難な状況である。そこで、より安価な澱粉からCIを生産する方法を開発している。具体的には、(1)CI生産菌を澱粉含有培地で培養してCIを菌対外に生産する発酵法と、(2)新規酵素デキストラングルカナーゼ(DGase)とCI合成酵素(CITase)を澱粉に作用させることによりCIを生産する酵素法である。今後反応系の最適化により、安価なCIの実用的製造技術への発展が期待される。
成果の内容・特徴
- (1) CIはグルコースがα-1,6結合で環状に重合したオリゴ糖で、これまでにグルコースの数7~17個から成るCI-7~CI-17が知られている(図1)。CI生産菌Bacillus circulans T-3040株を澱粉含有培地で培養すると、デキストランで培養した場合と同様、培地中にCIを生産する(図2)。
(2) T-3040株を2%の可溶性澱粉を含む培地で培養すると、3日目からCIの蓄積が見られ、4日目で澱粉の約20%がCI-7~CI-12に転換される(表1)。
- (1) CI生産菌はこれまで3株が知られているが、このうちPaenibacillus sp. 598K株を澱粉で培養するとその培養上清から、DGaseが検出される。この酵素は図3に示すとおり、マルトオリゴ糖から低分子と高分子のオリゴ糖を生産する不均化反応を行う。DGaseは澱粉のα-1,4結合鎖を分解して転移反応し、新たにα-1,6結合鎖を作る反応を触媒する。
(2) CITaseを単独で作用させても澱粉やマルトオリゴ糖からCIを生産させることはできないが、Paenibacillus sp. 598K株由来のDGaseと B. circulans T-3040株由来のCITaseを同時に作用させることにより、澱粉からでもマルトオリゴ糖からでも半日以内で原料の20%以上をCIに転換できる(図4)。
成果の活用面・留意点
- CI生産菌を澱粉含有培地で培養するだけの簡単な方法でCIを生産することができる。4日間以上という長い培養時間が必要となるので、発酵法を実用化するには短い培養時間でCIを生産できる変異株を取得する等、さらに開発を進める必要がある。
- 新規に発見したDGaseと、CITaseを同時に用いることにより、澱粉やその分解物(マルトオリゴ糖)からCIを酵素生産できる。遺伝子組み換え技術で酵素を大量生産し、短い反応時間で多量のCIを生産することができる。
具体的データ





その他
- 研究課題名:バイオテクノロジーを利用した新食品素材の生産技術の開発及び生物機能
の解明・利用
- 中課題整理番号:313e
- 予算区分:イノベーション創出、戦略的基盤技術高度化、交付金
- 研究期間:2006~2010年度
- 研究担当者:舟根和美、木村啓太郎、鈴木龍一郎、北岡本光、儀部茂八(CIバイオ)、
渡嘉敷唯章(TTC)、川端康之(大阪樟蔭女大)、小林幹彦(実践女大)、
藤本瑞(農生研)、木村敦夫(北大)
- 発表論文等:舟根ら「サイクロデキストランの製造方法およびサイクロデキストラン合成酵素の製造方法」特許公開2008-167744