L-アラビノースからのキシリトール発酵生産
要約
遺伝子組換えにより代謝経路を改変した大腸菌を用いてL-アラビノースをキシリトールに変換する技術である。培養24時間で10.5 g/LのL-アラビノースから92%の収率で9.7 g/Lのキシリトールを生産することができる。
- キーワード:キシリトール、L-アラビノース、代謝工学、微生物変換
- 担当:食総研・食品バイオテクノロジー研究領域・機能分子設計ユニット
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代表連絡先:電話029-838-8061
- 区分:食品
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
キシリトールは低カロリー、非う蝕作用等の現代の健康志向に適した特性を持つことから、機能性甘味料として需要が増加している。現在、キシロースを化学的に還元することによりキシリトールは生産されているが、純度の高いキシリトールを得るためには、パルプやコーンコブ等のキシロース含量が元々高い原料を使用する必要がある。一方、稲わら等の未利用・低利用バイオマス中にもキシロースが多く含まれており、これらの資源からキシリトールが効率的に生産することができるようになれば、バイオマスの有効利用にも繋がることが期待される。しかし、多くのバイオマスにはキシロースに加え、L-アラビノースも多量に含まれており、化学的還元法ではL-アラビトールが副生してしまう問題がある。そこで、本研究ではL-アラビノースからキシリトールを生産する技術を開発する。
成果の内容・特徴
- 遺伝子組換えにより、(i) L-アラビノースをL-リブロースに変換するL-アラビノースイソメラーゼ、(ii) L-リブロースをL-キシルロースに変換する D-プシコース3-エピメラーゼ、(iii)
L-キシルロースをキシリトールに変換するL-キシルロースレダクターゼの3つの酵素遺伝子(図1)を利用することによりL-アラビノースをキシリトールに変換する新たな代謝経路を大腸菌内に構築する。さらに、変換経路の代謝中間産物の消費を防ぐために、宿主菌のL-リブロキナーゼ、L-リブロース5-リン酸4-エピメラーゼ、L-キシルロキナーゼ遺伝子を破壊する。
- 大腸菌のL-アラビノース代謝関連プロモータを利用することにより、基質(L-アラビノース)のみで、発現誘導物質を別途添加することなく、変換経路を構成する3つの酵素を同時に発現させることが可能である(図2)。
- この変換経路を導入した大腸菌を使用することにより、培地に加えたL-アラビノースをキシリトールに変換できる。しかし、このままではキシリトール収率(基質L-アラビノース量に対するキシリトール収率)は25%と低い(図3)。
- 収率が低い原因として、3段階目の反応に必要な補酵素(NADH)の不足が推察される。補酵素を再生させるためにグリセロールを培地に添加することによりキシリトール収率は大幅に改善され、培養24時間で、10.5 g/LのL-アラビノースから9.7 g/Lのキシリトールを生産することが可能である。この場合のキシリトール収率は92%となる(図4)。
成果の活用面・留意点
- バイオマスを原料にした効率的なキシリトール生産のためには、キシロースからキシリトールの変換も併せて行う必要がある。
- 本菌に、さらに補酵素再生系を導入することにより、グリセロールを添加せずとも収率良くL-アラビノースをキシリトールに変換することが可能になると考えられる。
具体的データ




その他
- 研究課題名:微生物代謝工学を用いた希少糖生産方法の開発
- 中課題整理番号:313e
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2006~2010年度
- 研究担当者:榊原祥清
- 発表論文等:Sakakibara Y. et al.
(2009) J. Biosci. Bioeng.107 (5)
506-511.