稲わらを湿式貯蔵しながら常温水酸化カルシウム前処理を行う「RT-CaCCO法」

要約

 稲わらの繊維質に対する常温・7日間の水酸化カルシウム処理は、120°C・1時間処理と同等の効果を発揮する。CaCCO法を常温で行うRT-CaCCO法では、湿式貯蔵中に前処理が進み、ショ糖や澱粉の分解を抑えつつ繊維質の酵素糖化効率が向上する。

  • キーワード:稲わら、ショ糖、澱粉、バイオエタノール、RT-CaCCO
  • 担当:食総研・糖質素材ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7189
  • 区分:バイオマス
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

稲わらを原料としてバイオエタノールを製造するためには、発酵性糖質の流亡や分解を極力抑えるとともに、変換工程におけるエネルギー投入を抑えた効率的な変換技術の開発が必要となる。そこで、稲わら原料中の繊維質や易分解性糖質から発酵性糖質を回収するための水酸化カルシウム(Ca(OH)2)前処理技術「CaCCO(Calcium Capturing by Carbonation)法」(平成21年度バイオマス研究成果情報)における熱投入を抑えるため、常温処理の有効性を評価し、新技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • CaCCO法は、粉砕稲わら原料をCa(OH)2懸濁液と反応させた後、炭酸ガスで中和し、中和後の塩である炭酸カルシウムを反応槽内に残す前処理技術であるが、Ca(OH)2との反応を120°C・1時間行うことにより、繊維質に対する酵素糖化効率の向上を図る。それに対して、稲わら繊維質をCa(OH)2懸濁液(Ca(OH)2/原料比=0.2)中で室温・7日間処理した際にも、120°C・1時間と同等の酵素糖化率の向上が観察され、RT (Room Temperature)-CaCCO法としての技術が確立した(図1)。水中で室温処理すると、微生物汚染が進み、前処理効率が低下することが問題となる。
  • 稲わらのRT-CaCCO法処理において、室温Ca(OH)2前処理時における易分解性糖質(ブドウ糖、果糖、ショ糖、澱粉及びβ-1,3-1,4-グルカン)の安定性をモデル化合物を用いて評価すると、還元性をもつ遊離糖は徐々に分解されるが、ショ糖、澱粉及びβ-1,3-1,4-グルカンは大部分が維持される(図2)。
  • 稲わら(コシヒカリ)を原料として、RT-CaCCO法による前処理及び酵素糖化を行うことにより、原料中の六炭糖(ブドウ糖+果糖)回収率76.0%、キシロース回収率65.2%を達成する。炭酸ガスによる中和の前に石臼による湿式粉砕工程を導入した場合、それぞれの値は86.3%及び72.6%に向上する。

成果の活用面・留意点

  • RT-CaCCO法を用いると、120°Cの高温処理が省けることから、熱処理コスト及び前処理設備費の低減が可能となる。
  • 稲わらやコーンストーバー等の草本系原料の多くは含水率が高いことから、急速に腐敗するが、現在、低コスト湿式貯蔵技術は存在せず、バイオマス変換技術実用化への大きい障壁となっている。本前処理技術は、高いpHでの貯蔵により腐敗を抑制できることから、サトウキビバガス、コーンストーバー等の繊維質、稲やサトウキビの地上部全体のような、ショ糖や澱粉を含む繊維質系原料などに対しても適用性が高い。
  • 今後、原料特性に対応したRT-CaCCO法の実用化に向けて、粉砕コストや加水量を抑えつつ、Ca(OH)2懸濁液との混合を効率的に行うための最適粉砕・混合条件の決定が必要である。

具体的データ

脱澱粉・脱遊離糖処理を行った後の稲わら(コシヒカリ)繊維質を室温(25°C)で Ca(OH)2 処理した際の貯蔵期間と前処理効果との関係

0.5%水酸化カルシウム溶液中での室温保存時における各糖質の回収率変化

その他

  • 研究課題名:未利用バイオマス及び資源作物を原料とした低コスト・高効率バイオエタノール変換技術の開発
  • 中課題整理番号:224-b
  • 予算区分:委託プロ(バイオマス)
  • 研究期間:2007年度~2010年度
  • 研究担当者:徳安健、池正和、朴正一、城間力、Muhammad Imran Al-Haq、荒金光弘
  • 発表論文等:城間力ら: Bioresour. Technol. 102 (2011) 2943-2949.