テンサイとバレイショを混合するバイオエタノール製造技術「MIX-CARV法」

要約

テンサイ・バレイショの両磨砕物を混合し、CARV法を用いて粘性低下処理と澱粉液化・並行複発酵を行うことにより、テンサイの単独使用時に必要な搾汁やシックジュース調製工程を省くとともに、高濃度のエタノールを生産できる。

  • キーワード:テンサイ、バレイショ、バイオエタノール、MIX-CARV
  • 担当:食総研・糖質素材ユニット、北農研・寒地バイオマス研究チーム、北農研・寒地地域特産研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7189
  • 区分:バイオマス
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

我が国では、テンサイ由来のシックジュースからのバイオエタノール製造技術が実証段階にある。しかしながら、この製造技術では、製糖工場のシンジュース濃縮設備を併用できる反面、濃縮時の熱エネルギー投入が不可欠となる欠点を有する。そこで、テンサイの搾汁液の熱濃縮を省略するため、「CARV(Conversion After Reduction of Viscosity)法」(平成20、21年度バイオマス研究成果情報)の改良技術を開発する。その際には、比較的低い糖濃度のテンサイ磨砕物へ澱粉系素材を混合して糖液濃度を上昇させるとともに、加熱を伴う澱粉液化工程の導入により微生物汚染リスクの低減を考慮した変換工程とする。

成果の内容・特徴

  • 開発された新変換工程(MIX-CARV法)は以下のとおりである。
    1)テンサイ「北海87号」及びバレイショ「コナフブキ」を、それぞれ湿式グラインダー処理により無加水磨砕することによ
      り、表1の成分組成を示すテンサイ磨砕物(SBM)、バレイショ磨砕物(PM)及び両者の1:1(重量比)混合物(MIX)を得
      る。
    2)磨砕物について、ラピッド・ビスコ・アナライザー(Newport Scientific社)により、ペクチナーゼ製剤、ヘミセルラーゼ製
      剤及びセルラーゼ製剤の混合酵素を加えて50℃、160回転で撹拌すると、SBMでは殆ど粘性低下しないのに対し
      て、PM及びMIXで粘性低下がみられる(図1)。
    3)2L容量のジャーファーメンター内にSBM及びPMを各300 g投入した後、前項と同じ酵素製剤で50℃・4時間の粘性
      低下処理(撹拌速度200 rpm)を行い、さらに耐熱性α-アミラーゼ製剤を投入して95℃・30分間の澱粉液化処理を
      行う。その後、グルコアミラーゼ製剤、硫安(磨砕物1 gに対して4 mg)及びアルコール酵母(Saccharomyces
      cerevisiae
    NBRC 0224株)を加え、30℃・撹拌速度60 rpmで並行複発酵を行う。
  • 図2に示すとおり、デキストリン量は初期に増加した後、迅速に消失し、ショ糖はブドウ糖と果糖に分解されつつ消失する。ブドウ糖と果糖は一旦増加し、ブドウ糖よりも遅れて果糖が消失する。ま、培養48時間後のエタノール濃度は14.2%(v/v)となり、発酵性糖質(ショ糖、遊離還元糖、澱粉及びセルロース由来)の量から計算した理論収率の92.4%に達する。

成果の活用面・留意点

  • MIX-CARV法によれば、原料磨砕装置、澱粉液化装置、発酵槽と蒸留装置があれば主プロセスが完成する。これらの装置を揃えることにより、バレイショ磨砕物等の澱粉系原料のみを用いたエタノール製造も可能となり、多様な変換工程に対応できる。
  • 蒸留残渣の高度利用方法及び処理方法は、プロセス全体の環境負荷及び製造コストに大きく影響を及ぼす。プロセスの完成に合わせた高度化研究が必要となる。

具体的データ

テンサイ磨砕物( SBM)、バレイショ磨砕物( PM)及び両者の1:1 混合物( MIX) の主要成分組成

ラピッド・ビスコ・アナライザー による各磨砕物の酵素処理時に おける粘性低下特性磨砕物混合試料( MIX) の粘性低 下・澱粉液化後の並行複発酵試験 における各成分の消長

その他

  • 研究課題名:未利用バイオマス及び資源作物を原料とした低コスト・高効率バイオエタノール変換技術の開発
  • 中課題整理番号:224-b
  • 予算区分:委託プロ(バイオマス)
  • 研究期間:2007年度~2010年度
  • 研究担当者:徳安健、ユンミンスウ、朴正一、荒金光弘、池正和、田宮誠司、高橋宙之
  • 発表論文等:ユンミンスウ、朴正一、荒金光弘、池正和、田宮誠司、高橋宙之、
                       徳安健: Biosci. Biotechnol. Biochem.(2011) (doi:10.1271/bbb.100744).