担子菌エノキタケFv-1株における遺伝子組換え法の構築とベクター改良

要約

エノキタケの形質転換に有用なベクターを作製するとともに、制限酵素を用いた形質転換を行うことで、効率的にエノキタケの遺伝子組換え体を得る事ができる。更に強力なプロモーターを用いることで異種遺伝子の高発現を実現する。

  • キーワード:エノキタケFv-1株、形質転換、gpdプロモーター
  • 担当:食品総合研究所・生物機能利用ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8022
  • 区分:バイオマス
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

エタノール生産能、糖化酵素生産能をもつエノキタケFv-1株は、本菌だけで酵素生産・糖化・発酵を同時に行うことが可能であり、連結バイオプロセスによるバイオエタノール生産菌として有用である。しかしながらペントースからのエタノール生産能は低く、また連結バイオプロセスによるエタノール生産には糖化酵素の添加が必要であることから、Fv-1株の能力を形質転換により改善する必要がある。エノキタケの遺伝子組換えについては報告が少なく、また胞子を用いた形質転換の方法では、一連の操作に長い時間を有するため非現実的であった。そこで本研究では、効率的なFv-1株の遺伝子組換え法を構築し、異種遺伝子を導入することによる菌株の改良技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • エノキタケFv-1のもつtrp (tryptophan synthetase)遺伝子のプロモーター配列を取得し、trpプロモーターを利用して遺伝子を発現させる遺伝子組換え用ベクターであるpFvTを作製する(図1A)。本ベクターはpUC oriを持ち、Escherichia coli 内で複製することが可能である。またE. coli 由来のハイグロマイシン耐性遺伝子(hph)を有しており、形質転換体をハイグロマイシン添加培地上で選抜することができる。
  • Fv-1の菌糸からプロトプラストを約108/ml個になるよう調整し、形質転換へと使用する。形質転換の際、pFvTのhph及びプロモーター配列内を切断しない制限酵素(KpnI, BglI, PstI)を用い、restriction enzyme mediated-integration (REMI)法による形質転換効率への影響を検討した。これにより、取得できる形質転換体数を顕著に増加させることが可能となる (表1)。
  • 高発現型のプラスミドを構築するため、Fv-1株のgpd (glyceraldehydes-3-phosphate dehydrogenase)プロモーター配列を取得し、gpdプロモーターを利用して遺伝子を発現させることが可能な遺伝子組換え用ベクターであるpFvGを作製する(図1B)。さらにgpdプロモーターによりhphを発現できるpFvTgh及びpFvGgh (図1C, D)を作製し、形質転換体の選抜効率の検討を行った。この結果、gpdプロモーターによりhphを発現させた場合では、trpプロモーター使用時と比べ、約3倍のハイグロマイシン耐性形質転換体を取得することが出来た(表2)。さらに、各々の形質転換体のhph発現量をRT-PCRにより比較した結果、gpdプロモーターでhphを発現させた場合では、trpプロモーターを用いた場合よりhphの発現が高いことが認められる(図2)。これにより、エノキタケFv-1において、gpdプロモーターは遺伝子の高発現に効果的であることが示された。

成果の活用面・留意点

  • 短期間でかつ効率的に、エノキタケFv-1株に異種遺伝子を導入し、菌株を改良することが可能となる。
  • 今後、Fv-1株の代謝工学によりペントース利用効率の改善や、強力な糖化酵素を発現する菌株の開発が期待される。

具体的データ

エノキタケFv-1 形質転換用ベクター

各形質転換体におけるhph の発現

pFvT を用いた形質転換実験における 制限酵素の添加効果

プロモーターと形質転換体数の関係

 

その他

  • 研究課題名:代謝工学によるwhole cropの直接発酵に適した担子菌の開発
  • 中課題整理番号:224-b
  • 予算区分:委託プロ(バイオマス)
  • 研究期間:2007年~2010年度
  • 研究担当者:金子哲、前原智子、水野亮二、一ノ瀬仁美
  • 発表論文等:Maehara T. et al. (2010) Biosci Biotechnol Biochem.74(5):1126-8
                       Maehara T. et al. (2010) Biosci Biotechnol Biochem.74(12):2523-5.