スタック品種の混入に影響を受けない新規組換え体混入率評価法の確立

要約

トウモロコシ穀粒20粒を1グループとして20グループを分析して混入率を評価する。1グループの20粒を緩衝液とともに粉砕し、同一容器内でDNAを溶出し、溶出された未精製DNAをPCR法で分析する。国際的なガイドラインに従って12機関にGM陽性試料12と陰性試料6の18試料を配付して室間共同試験を行い分析法の妥当性を確認した。

  • キーワード:遺伝子組換え、検知、スタック品種、グループテスティング、妥当性確認
  • 担当:食品安全信頼・信頼性確保
  • 代表連絡先:電話 029-838-7369
  • 研究所名:食品総合研究所・食品分析研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

我が国では、法令に基づき、遺伝子組換え食品に関して適切な表示を付すことが求められている。特に、「遺伝子組換えでない」等の不使用表示を付すためには、原料農産物が適切に分別生産流通を経たものであることが求められており、その目安として組換え体の非意図的混入が5%以下と定められている。このため、表示の適切性の検証を目的として、行政検査機関では食品原料の組換え体混入率が基準値(5%)以下かどうかについて検査が実施されている。また、民間企業においても食品原料の品質管理のため同様の検査が実施されている。近年、トウモロコシについては組換え体を複数掛け合わせたスタック品種の栽培・流通が拡大しているが、従来から利用されている分析手法ではスタック品種の混入率を正確に評価することができない(図1)。そこで、検査の正確性を向上させるため、スタック品種の混入に影響を受けない新しい組換え体混入率評価技術の開発を試みた。

成果の内容・特徴

  • スタック品種の混入に影響を受けない新たな手法としてグループテスティング法を考案した。グループテスティング法は以下の3つのステップから構成される分析手法である(図2)。(1)トウモロコシ穀粒を一定粒数ずつ含むグループを多数用意する。(2)グループ毎に組換え体が含まれるか否かをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で分析する。(3)供試した全グループのPCR結果から統計学的に混入率を評価・推定する。
  • グループテスティング法を実施するための具体的な分析法を確立した(図3)。前処理方法には、トウモロコシ穀粒を緩衝液とともにフードミルで粉砕後、同一容器内でそのままDNAの溶出させる方法を採用した。また、PCR反応液は、溶出された未精製DNAを直接用いることができる組成とした。PCRにおけるDNA増幅の検出にはリアルタイムPCR装置を用いた。以上の工夫により、これまでにない簡易迅速分析を実現した。
  • 開発した分析法の妥当性確認のため、国際的なガイドラインに従い試験室間共同試験を実施した。組換え体検査の経験がある12機関に、GM陽性試料(20粒中1粒または2粒のGM粒を含む)12と陰性試料(20粒の非GM粒)6の合計18試料を送付し、分析を依頼したところ、全体で1試料を除いて全て正解が得られ、妥当性が確認された。
  • トウモロコシ穀粒20粒を1グループとして20グループの分析を行うことで、現行の厚生労働省通知検査法と同等の信頼性をもった検査が可能であることを明らかにした。確立した分析法を用いることで、穀粒の粉砕から結果の判定まで4時間以内に完了することを確認した。

成果の活用面・留意点

  • 従来の分析手法に比べ、より正確性の高い方法として行政検査機関等の検査に活用されることが期待される。

具体的データ

図1 スタック品種の例図2 グループテスティング法の原理
図3 グループテスティング法による簡易迅速分析の手順

(真野潤一、高畠令王奈、古井聡、橘田和美)

その他

  • 中課題名:信頼性確保のための原材料・生産履歴判別等の技術開発と標準化
  • 中課題番号:180d0
  • 予算区分:委託プロ(新農業展開ゲノムプロジェクト)
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:真野潤一、高畠令王奈、古井聡、橘田和美
  • 発表論文等:Mano J. et al. (2011) J. Agric. Food Chem. 59(13):6856-6863