サトウキビの低温アルカリ(LTA)前処理による六炭糖回収とバイオエタノール製造

要約

サトウキビ搾汁液中の六炭糖だけでなく、バガス繊維質中の六炭糖も回収して原料からのバイオエタノール製造量を増すため、バガスを室温下で水酸化ナトリウム前処理した後に繊維質を酵素糖化し、得られた糖化液を搾汁液と合わせて通常の酵母で発酵する。

  • キーワード:サトウキビ、バイオエタノール、LTA法、六炭糖
  • 担当:バイオマス利用・エタノール変換技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-8015
  • 研究所名:食品総合研究所・食品素材科学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

サトウキビ、スイートソルガムなどのように、茎部に糖液を含むバイオエタノール原料は、発酵技術に課題を有する五炭糖(C5)の量が六炭糖(C6)と比較して少ないことから、C5を発酵に使わず、通常の酵母で発酵可能なC6のみを用いたバイオエタノール製造が有効と考えられる。そこで、本研究では、サトウキビ茎部の搾汁により得られる糖液(ショ糖、ブドウ糖及び果糖:125g/kg生茎程度)に加えて、搾汁後のバガスの繊維質中に含まれるセルロース由来のブドウ糖(49.0g/kg生茎程度)も効率的に回収・利用し、茎部に含まれるC6のほぼ全量を用いた発酵が可能なバイオエタノール製造工程を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、サトウキビ茎部の搾汁後に得られるバガスを粉砕後、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中で室温前処理(LTA:Low Temperature Alkali pretreatment)し、得られた繊維質中のセルロースを酵素糖化してC6のブドウ糖を効率的に回収した後、これを搾汁液とともに発酵することを特徴とするバイオエタノール製造技術である(図1)。
  • サトウキビ「農林8号」のバガスを粉砕後、25°CでNaOH水溶液に1時間浸漬し、褐色のスラリーを得る。これを固液分離して得た固形分(繊維質)を水洗浄した後、1N塩酸を用いてpH4.8に調整し、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)中、50°Cでセルラーゼ製剤及びβ-グルコシダーゼ製剤により酵素糖化を行う。2-3Mの最適濃度のNaOHで24時間処理した後のグルカン糖化率は最大で90%前後となる(図2)。
  • サトウキビ茎部(2kg)の搾汁後に副生するバガスをNaOH(2.5M、25°C、16時間)処理し、洗浄・中和後の繊維質を72時間酵素糖化した後に、搾汁液と合わせてアルコール酵母(Saccharomyces cerevisiae NBRC 0224)を用いて30°Cで発酵を行う。その結果、15時間後には、添加基質から90%の収率で4.4%(v/v)のエタノール溶液が得られる(図3)。サトウキビ茎部の糖液とセルロース中のC6総量から換算すると、88%のエタノール収率となる。

成果の活用面・留意点

  • 本技術は、茎に糖液を蓄積するサトウキビ、スイートソルガム等からのバイオエタノール製造への適用が期待される。また、非組換え酵母を用いるため、微生物管理・制御が容易であり、蒸留残渣の圃場還元等を検討する際の障壁が少ないと考えられる。
  • 本技術は、ワラなどの草本系原料に対して有効であるが、木質系原料では160°C前後の高温条件下での前処理が必要となる。複数原料を用いたプラントの周年稼働を計画する場合には、原料選定に注意が必要である。
  • LTA前処理・固液分離後に得られる液分(黒液)については、パルプ産業技術を活用することにより、溶出するリグニン、ヘミセルロース等の有機物から燃焼エネルギー回収・残渣処理しつつ、NaOHを回収・再利用することができる。

具体的データ

図1. LTA法によるサトウキビ茎部からのバイオエタノール製造工程の概要図
図2. サトウキビバガスのアルカリ前処理 (1時間)の条件と処理後に得られる 繊維質グルカンの酵素糖化率との関係図3. サトウキビ搾汁液とバガス加水分解液の混合物を用いた発酵によるエタノール生産量の変化

(徳安健、池正和)

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマスエタノール変換の高効率・簡易化技術の開発
  • 中課題番号:220c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(バイオマス)
  • 研究期間:2007~2011年度
  • 研究担当者:徳安健、池正和、我有満、高井智之、石川葉子、武龍、荒金光弘、寺島義文(国際農研)、和田昌久(東京大学)
  • 発表論文等:武龍ら(2011) Bioresour. Technol. 102:4793-4799
    武龍ら(2011) Bioresour. Technol. 102:11183-11188