栄養成分による体内時計のリセット

要約

マウス肝臓の体内時計は、食餌をすることによりリセットされる。食餌摂取直後に時計遺伝子Dec1およびPer2が誘導される。ブドウ糖とアミノ酸の混合栄養液の注射によって、食事摂取と同様に、肝臓の体内時計がリセットされる。

  • キーワード:体内時計、栄養摂取、アミノ酸、遺伝子発現解析
  • 担当:食品機能性・代謝調節利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-8041
  • 研究所名:食品総合研究所・食品機能研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

脂肪の燃焼、免疫、DNA修復など基礎的な生命現象の多くは1日の中でリズムを持っており、そのリズムは体内時計によって決定されている。体内時計の乱れは、代謝調節をはじめとする生理機能を低下させ、肥満や生活習慣病、ガンなどを引き起こしやすくする。最近では、朝食を抜く人や夜食を食べる人が増えており、このような不規則な食生活は、体内時計を乱す直接の原因になっている。

ヒトを含めた動物の体内には、多くの組織に体内時計が備わっている。身体の体内時計は、食事時刻に合わせたリズムを刻んでおり、特にエネルギー代謝に直接関わる肝臓は、食餌の摂取時刻や摂取内容による影響を受けやすい。そこで、食餌遅延と、各栄養素が肝臓の体内時計に及ぼす影響を評価、解明する。

成果の内容・特徴

  • 規則正しく定時に食餌を与えていたマウスに、1日だけ、数時間遅延させて食餌を与えると、肝臓の体内時計が1~4時間程度遅れる(図1)。肝臓の体内時計は毎日(ヒトの場合は毎朝)の食餌情報によりリセットされる。
  • 食餌の代わりに、ブドウ糖とアミノ酸の混合栄養液をマウスに腹腔内注射すると、食餌を摂取した場合と同様に肝臓の時刻合わせ(時計のリセット)がなされる。また、ブドウ糖溶液のみ、あるいはアミノ酸溶液のみではこの現象は起こらないことから、肝臓による食餌情報の感知には、ブドウ糖とアミノ酸の両者が必要である。
  • 食餌摂取の前後に肝臓で働いている遺伝子を、DNAマイクロアレイにより解析すると、時計遺伝子であるDec1およびPer2が食餌摂取の直後に誘導される(図2)。この2つの遺伝子は体内時計のリセットに寄与する。

成果の活用面・留意点

  • 規則正しく朝食を摂取することで、規則正しい体内時計(代謝リズム)が維持される。
  • 成分としては、糖分とアミノ酸(タンパク質)を含む、バランスの良い食事(朝食)が体内時計のリセットに重要である。
  • 身体の体内時計は食事によってリセットされるのに対し、中枢(脳)の体内時計は光によってリセットされる。食事リズムのみによって、すべての体内時計を制御できるわけではない。

具体的データ

図1 マウス肝臓の体内時計リズム
図2 食餌摂取により誘導される遺伝子

(大池秀明)

その他

  • 中課題名:代謝調節作用に関する健康機能性解明と有効利用技術の開発
  • 中課題番号:310b0
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:大池秀明、小堀真珠子
  • 発表論文等:Oike et al. (2011) PLoS ONE. 6(8):e23709