有機栽培されたチャ生葉の窒素安定同位体比(δ15N値)の年次変動

要約

有機栽培と慣行栽培との間で、チャ生葉のδ15N値に有意な差が認められるのは、有機栽培開始3年後である。δ15N値は有機栽培茶判別標識の一つとして利用できるが、その値のみを根拠に有機栽培茶を判別することは困難である。

  • キーワード:有機栽培、茶、δ15N値、判別技術
  • 担当:食品機能性・食味・食感評価技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7089
  • 研究所名:食品総合研究所・食品分析研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食への安全志向から有機栽培茶への消費者の関心が高まっているが、有機栽培ではない茶が有機栽培茶と偽られて流通する可能性も考えられるため、それらを科学的に判別する方法の開発が期待されている。

有機農産物のδ15N値は、主たる肥料として化学肥料を用いる慣行栽培に比べて高くなる傾向にあることが米や野菜などで知られている。そこで、多年間に渡り植換えの必要がない永年性作物であるチャを有機栽培した場合の生葉のδ15N値の年次変動を調べ、その有機栽培茶判別標識としての利用の可能性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 芽と第1~4葉のチャ生葉のδ15N値の変化は、使用した有機肥料のδ15N値の影響を受け、高いδ15N値の肥料を施肥するほど、増加率が大きくなる(図1)。
  • 有機栽培と慣行栽培との間で、チャ生葉のδ15N値の差は、有機肥料の施肥後短期間では明確に現れない。しかし、菜種粕のようにδ15N値が低い有機肥料を施肥した場合を除き、有機栽培開始から3年後には、両者の間に有意な差が生じる(図1)。
  • 芽と第1~2葉、第3~4葉、茎の3部位全ての組み合わせにおいて、有機栽培と慣行栽培との間でチャ生葉のδ15N値に有意な差が認められるのは、有機栽培開始から3年後である(図2)。
  • 有機栽培をしている生産者の圃場から採取されたチャ生葉のδ15N値は、有機栽培ではない市販茶のδ15N値と同程度の場合も観測される(図3)。したがって、製茶された茶葉のδ15N値は、有機栽培茶判別標識の一つとして利用できるが、δ15N値のみを用いて有機栽培茶を判別することは困難である。

成果の活用面・留意点

  • 図1と図2の試験は、定植後14年間慣行栽培が行われてきた埼玉県農林総合研究センター内の試験圃場にて実施された。慣行栽培試験では、化学肥料に加え、化学肥料と有機肥料を混合した市販の配合肥料を施肥した。有機区、慣行区とも、年間の施肥量は、窒素=45kg/1000m2 (10a)、カリウム=22.5kg/1000m2 (10a)、リン=22.5kg/1000m2 (10a)である。
  • 図3における有機栽培ではない市販茶のδ15N値の範囲は、全国の産地から収集された31点の試料の分析結果に基づく。
  • チャは作物名、茶はチャの葉または茎を加工し製品となったものを指す。
  • 日本農林規格で定義される有機農産物において禁止されている資材、農薬、組換えDNA技術の使用に関しては、δ15N値を利用する方法とは異なる判別法の開発が必要である。

具体的データ

図1 肥料別のチャ生葉(「やぶきた」)のδ15N値の年次変動図2 葉位別のチャ生葉(「やぶきた」)のδ15N値の年次変動
図2 葉位別のチャ生葉(「やぶきた」)のδ15N値の年次変動

(林宣之)

その他

  • 中課題名:食味・食感特性の評価法及び品質情報表示技術の開発
  • 中課題番号:310-d0
  • 予算区分:委託プロ(食品プロ)、交付金
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:林宣之、氏原ともみ、田中江里(埼玉県川越農林振興センター)、岸保宏(埼玉県さいたま農林振興センター)、小川英之(埼玉県農林総合研究センター)、松尾啓史(宮崎県総合農業試験場)
  • 発表論文等:Hayashi N. et al. (2011)J. Agric. Food Chem. 59(18): 10317-10321