「ごはんパン」に適した炊飯米特性と製造条件

要約

小麦粉の一部を炊飯米で代替した「ごはんパン」の膨らみには、米成分ではアミロース含量が、炊飯米特性では表層の粘りが大きく影響する。グルテン膜にかわり糊化澱粉が観察され、生地形成の混捏条件は小麦粉製パンより弱めが適している

  • キーワード:ごはんパン、炊飯米、米粉、比容積、アミロース
  • 担当:加工流通プロセス・食品素材高付加価値化
  • 代表連絡先:電話 029-838-8045
  • 研究所名:食品総合研究所・食品素材科学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

わが国の食料自給率は40%を下回り、他の先進国と比しても低い水準で推移している。食料安全保障上、自給率を向上させることは急務である。そのため、従来小麦粉が利用されてきた製パン分野に、国内生産できる米を用いることが推進されている。

炊飯米はパン材料として好適である(奥西、食科工、2009;奥西、平成20年度農研機構成果情報(技術・参考))が、どのような炊飯米が適しているか等の「ごはんパン」製造条件が示されてこなかった。これらの情報は、特にホームベーカリーメーカーおよび中小製パン業から要望があることから、製パンに影響する炊飯米特性を明らかにするとともに、製パン条件を提案することを目標とする。

成果の内容・特徴

  • 小麦粉の0-30%を炊飯米で置換(乾物換算)し、パンの比容積(膨らみ)を比較したところ、もち米および低アミロース米、中アミロース米、高アミロースの順に比容積が大きく、大半の良食味品種では20%程度の置換率で比容積が最大となる(図1)。パンの比容積群から計算で求められる最大値を米品種に固有の最大比容積と定義した。米成分ではアミロース(負の相関)とタンパク質(負の相関)が最大比容積に関与する。炊飯米特性では表層の粘り(正の相関)が最大比容積に大きく寄与する(表1)。
  • 発酵終了後のドウの顕微鏡観察では、炊飯米添加により糊化澱粉が気泡膜を形成している様子が捉えられ(図2)、小麦粉パンでみられるようなグルテンネットワークによる発酵ガス保持とは異なることが推察される。
  • 実機を用いた製造条件では、生地の完成(デベロップ)に要する時間(表2のMあるいはH)は小麦粉製パンより短くなる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 ホームベーカリーメーカーや中小製パン業界が当面の普及対象である。炊飯米の調達が比較的簡便である(炊飯米5合で20斤程度製パン可能)ことがその理由である。大規模製パン業界への普及を妨げるものではない。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等
    ホームベーカリー5万台程度の普及台数を予定している。
  • その他 小麦粉製パンに比べて生地の完成に時間を要さないが、反面、オーバーミキシングになりやすい。パナソニック(株)に情報提供を行い、同社が2011年秋に「ごはんパン」コース搭載のホームベーカリーを発売した。信州大学と長野県佐久市が同市で行っているコンソーシアムに技術指導を行い、「ごはんパン」が特産品のひとつとして開発されている。新潟県等の小規模ベーカリーに技術指導を行い、古代米を用いたごはんパンが月100本(1本は1斤程度)以上製造販売されている。

具体的データ

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図2.発酵直後のドウの電子顕微鏡写真
表1 米特性値がパン比容積に与える影響表2 各パンのミキシング条件

(奥西智哉)

その他

  • 中課題名:食品及び食品素材の高付加価値化技術の開発
  • 中課題番号:330b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:奥西智哉
  • 発表論文等:Iwashita K. et al. (2011) Food Sci. Tech. Res. 17(2):121-128