グリシンとD-アラニンをペプチドから遊離する新規麹菌アミノペプチダーゼ

要約

我が国の醸造産業で麹菌として用いられているAspergillus oryzaeは、醸造食品の呈味性付与に重要なアミノペプチダーゼを多数生産する。ゲノム情報に基づいて遺伝子組換え技術により高生産したGdaAは、グリシン及びd-アラニンをペプチドN末端から遊離する活性を示すアミノペプチダーゼである。本酵素は米麹から簡便に抽出できる。

  • キーワード:麹菌、タンパク質・ペプチド分解、アミノペプチダーゼ
  • 担当:加工流通プロセス・食品生物機能利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8077
  • 研究所名:食品総合研究所・応用微生物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

Aspergillus oryzaeは我が国の伝統的発酵食品の製造に麹菌として利用されており、産業上重要な糸状菌である。麹菌のアミノペプチダーゼは味噌や醤油等の呈味性付与に深く関与していることが知られている。本菌のゲノム情報解析から、30種類以上のアミノペプチダーゼ様遺伝子が見出されており、醸造工程の最適化のために、これらの遺伝子産物の醸造における役割の解明が望まれている。本研究では、これらのうち、グリシン及びd-アラニン遊離活性を示すGdaAの酵素活性や基質特異性、酵素化学的性質を明らかにすることを目指したものである。

成果の内容・特徴

  • 麹菌ゲノム解析株(A. oryzae RIB40)のゲノム情報中には、グラム陽性細菌(Ochrobactrum anthropi)のd-アミノペプチダーゼと43%のアミノ酸配列同一性を示す遺伝子gdaAが見出される。
  • gdaA高発現組換え麹菌株の液体培養菌体から調製した無細胞抽出液から、細胞内酵素であるGdaAタンパク質を硫安分画及び4段階のカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
  • GdaAは、各種アミノアシルパラニトロアニリド基質(Xaa-pNA、表1)やオリゴペプチド基質への反応性が既知のアミノペプチダーゼとは異なり、グリシンあるいはd-アラニンを遊離する活性が高い新規グリシン・d-アラニンアミノペプチダーゼである。
  • 図1に示すとおり、本酵素は微アルカリ条件(pH8-9)で活性を示し、pH8.5が至適pHである。また、0-60°Cの間で酵素活性を示し、40°Cが至適温度である。一方、pH6付近でも活性を示し、微酸性の発酵食品でも機能すると考えられる。
  • gdaA破壊麹菌株の液体培養菌体抽出液における緩衝液可溶性のグリシン及びd-アラニンアミノペプチダーゼ活性は非破壊(対照)株よりも極めて低く、無細胞抽出液中の同活性の大部分を本酵素が担う(図2)。また、本酵素は米麹を破砕せずに水中に一部が抽出可能であり、細胞内在酵素でありながらその調製が容易である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果はゲノム解析株を用いて得られたものであり、当該グリシン・d-アラニンアミノペプチダーゼは米麹を水抽出することにより簡便に活性が得られることから、今後、実用菌株における酵素生産様式について解明していく必要がある。
  • グリシンは甘味を呈するアミノ酸であり、解明した麹菌のグリシン・d-アラニンアミノペプチダーゼについて、麹菌を利用した発酵食品の製造工程における熟成や呈味性等への関与を明らかにすることが必要である。

具体的データ

表1 各種アミノアシルパラニトロアニリド(Xaa-pNA)に対する比活性
図1 GdaAのpH及び温度による酵素活性への影響
図2 液体培養菌体抽出液におけるGdaA活性の培養時間による変化

(楠本憲一、服部領太、鈴木聡)

その他

  • 中課題名:新需要創出のための生物機能の解明とその利用技術の開発
  • 中課題番号:330d0
  • 予算区分:交付金、新技術・新分野
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:楠本憲一、丸井淳一朗、松下(森田)真由美、多田功生、鈴木聡、服部領太、天野仁(天野エンザイム)、石田博樹(月桂冠)、山形洋平(東京農工大)、竹内道雄(東京農工大)
  • 発表論文等:1) Marui J. et al. (2012) Appl. Microbiol. Biotechnol. 93 (2):655–669
                       2) Morita H. et al. (2011) Biosci. Biotech. Biochem.74 (5):1000-1006